第8章 夢うつつ(おそ松)
おそ松くんは座ったっきり動く様子がない。
私のいる場所からは彼の顔は見えないけど、こちらの方を向くこともなく、ずっとテレビへと目線を向けているようだった…
変化がないから観察するのも飽きてきて、もう一度、ただいまって声をかけようかと思った時…
「あ〜あ ゆいちゃん、遅いなぁ〜」
おそ松くんが大きく伸びをして、私の名前を口にするものだから、ドキッとして身を潜める。
「会議、まだ終わんないのかなぁ〜。社畜は辛いねぇ〜。あ〜働きたくな〜い!」
ぼりぼりと頭を掻いている…
社畜…否定はしないけどさ… それにしても失礼なんだから!
少しだけムッとして、背後から驚かしてやろう…と近づこうとすると…
「あ〜〜 おしっこしたい!!」
急に大きな声を出す。
おそ松くんの背中はぶるりと大きく震え、縮こまっている…
びっくりさせようとした私がびっくりさせられてしまって、また慌てて身を潜めた。
「ビール飲みすぎたぁ〜 でもトイレ行くのめんどくさ〜い」
…トイレぐらい行けばいいのに…ほんとに面倒くさがりなんだから。
でも、『おしっこ』って言っちゃうところがちょっとかわいいな…なんて思ってしまう。
そんなことを考えているうちに、彼の背中はどんどん縮こまり、ぶるぶると震えだす…
頭を掻いていた手は、少し前屈みになった身体の中心…股間を押さえているようだった…
いつも飄々としているおそ松くんのちょっと恥ずかしい姿に胸が疼いてしまう…
できれば、少し意地悪だけど、正面からおしっこを我慢をする彼の姿をじっくり見てみたい…
自分にこんな感情があったなんて知らなかった…こういうのを性癖っていうのかな、と漠然と考える。
すると、また急に
「あー!!もー我慢できない!」
大きな声を出して立ち上がる彼。トイレは私のいる場所のすぐ横にある。
こっちに来る…!隠れなくちゃ!
慌ててトイレの向かいにある物置の引き戸を開けた。