第8章 夢うつつ(おそ松)
アパートの部屋の入り口にたどり着き、カバンの中から鍵を出す。
ドアを開けて玄関に入ると、赤色のスニーカーがちょこんと脱いであった。
安心して、深く息を吐き出す。
「ただいまぁ」
その場で声を出してみるけれど、彼は気付いていないようで返事がなかった。
居間へと続く短い廊下を歩き、ドアを開けると、彼はちゃぶ台に肘をついて腰掛け、ビールを飲みながらテレビを観ていた。
私のいる位置から後ろ姿が見える…でも、彼が振り向く気配はなく、まだ私が帰ったことに気付いてないみたい…
あぐらをかく後ろ姿…ちょこんと生えるアホ毛…襟足…パーカーを着ていても分かるすんなりした背中のライン…
時々、テレビに向かって笑ったり、「こいつより俺の方がイケメンじゃね?」などと平均顔のくせに文句を言ったりしている…
ビールをぐびりと飲んで、ちゃぶ台の上のポテチをパリパリとかじる…その傍らに空のビール缶と冷酒のビンが転がっていて、ちょっと飲み過ぎなんじゃないの?とつい眉をひそめてしまう…
でも、とっても無防備な背中…
彼はいつも鋭くて、周りの変化に敏感に気付く方だから、私の部屋でリラックスしてくれてるのかな?って素直に嬉しい…
そして… おそ松くんが気付くまで、こっそりと彼を観察してみようというイタズラ心が芽生えた…