第1章 これを恋と呼ぶのなら1(おそ松)
それ以来、私たちは時々一緒におしゃべりをするようになった。
赤塚公園のベンチに並んで腰かける。
彼のことで新しく知ったこと…
名前は松野おそ松くん、むつごの長男で、同い年の弟たちが5人いること。
おうまさんに会いに行くこととパチンコが大好き。
「俺たち6人揃って童貞なんだぜ、笑っちゃうよな」
…言いにくいことを可笑しそうに話す彼。
年齢は同い年だった。そして…働いていないのだという。
「ゆいちゃんは働きだしてどれくらいなの?」
「この春から社会人になったばかりだよ」
「へぇ〜、一番しんどいときじゃね?」
おそ松くんは今の生活が気に入っていて、働かなければという考えは、彼に言わせてみれば贅沢なことなんだそうだ。
働かないことを選んだおそ松くんの思想は、私にとって新鮮そのものだ…
「はぁ〜、でもゆいちゃんは頑張ってるよぉ。辛くても毎日身仕度して電車に乗ってさ。たまには自分を誉めてあげなって。」
「でも…なんだかうまくいかないことばかりなの…」
つい彼に上司と意見が合わなくて、辛いのだと愚痴をこぼしてしまう。
仕事をしていない彼に言ってもしょうがないや…と、心のどこかで思ってしまう…
「いいじゃん、上司とのやりとりなんて所詮相性がいいか悪いかだよぉ〜。言ったこと受け入れられなかったからって、ゆいちゃんの価値がなくなるわけじゃない。俺、仕事してなくてもそゆことはわかるよ?」
仕事をしてないことで偏見を持ってしまっていたんだ、と自分が恥ずかしくなる。
おそ松くんは…まっすぐな言葉をくれる人だ…
働いてるとか働いてないとか、そんなことにこだわらず、彼のことを知りたいと思った…