第6章 真昼の夢(十四松)
「僕…少し前にすごく好きな女の子がいたんだ…」
ぽつりと口にする十四松くん…
「…ゆっくりでいいから、話を聞きたいな」
そう伝えて、再び彼が話し出すのを待った。
彼はゆっくりと話し始める…
「彼女は何かに悩んでいて…悩んだ末に死のうとしていたくらい重たいものを抱えていた。僕は彼女が悩んでいることに薄々気付いていたけど、彼女を笑わせるようなことをして、その場をしのぐことしかできなかった…」
十四松くんはいつものように口を広げた表情で淡々と話す…でも、その瞳の奥に深い悲しみの色が揺れていた…
「僕、ただ笑わせることしか出来なかったんだ…彼女が背負っているものが何なのか、分からなかった…大事なことは何も話せなかった…でも彼女と会えなくなってしまって、僕に出来ることは、心の中で彼女のことを覚えていて、胸が痛いことにもちゃんと向き合うことなんじゃないかなって思ったんだ」
僕、あんまり難しいことは考えられないから…と呟く彼。
「ゆいちゃんと一緒にいると心がぽかぽかしてくる。もっと君に会いたくなるし、触りたくなる。でも、このまま一緒にいても…僕は…これから君が仕事に就いて先へ進んでいくのをただ笑って見ているだけになってしまう気がする…」
「……わたし、十四松くんが笑って側にいてくれたらそれでいいんだよ」
彼は口には出さないけれど、自分がニートであることとか、お金がないことをきっと気にしていた…それに……前に好きだった彼女のことを忘れられないんだろうなと思った…
「僕、あんまり難しいことは考えられないから…」
彼はもう一度、遠くを見るような瞳をして呟いた…