第6章 真昼の夢(十四松)
最後まで終わって…息を整えて、服を身に付けていたところに十四松くんのご兄弟が帰ってきて、すごく慌ててしまった。
ご兄弟たちは、わたしを見つけて『女の子がいる!』って大騒ぎした。
わたしは慌てて着た服がどこかおかしかったりしないか、髪の毛が乱れていないか心配で気が気じゃなかった…
簡単な挨拶をして、そそくさと外へ出てくる…
十四松くんもわたしの後について、家の外へ出て来てくれた。
「ゆいちゃん、送りマッスル」
空はすっかり暗くなっていてる…この町は都内なのにきれいに星が見える…
「はあっ ご兄弟たちに会えるとは思ってなかったからびっくりしちゃった…むつごさんだから、やっぱりそっくりだったよ」
「あはは、子どもの頃はもっと似てたんだよ。見分けがつくように色分けしまし〜た」
おどけて喋る十四松くん。
「でも…わたし、十四松くんのことはちゃんと見分けられる自信があるよ。色んな表情の十四松くんを知ってるから」
勇気を出して言ってみる。
「じゃあ今度、みんな同じ服着て見分けられるかクイズしてみよ〜よ!きっと楽しいよ」
わたしが勇気を出して伝えた言葉にも、彼はやっぱりおどけて返事をする。
少しだけ悲しくなってくる…
「…お腹空いたね…なんか食べに行かない?」
勇気をもう一度出して、そう誘ってみると…
彼は一瞬だけ猫目になって…でもすぐに元の表情に戻った後で、
「今日は家でご飯を食べマッスル!ゆいちゃんを送ったら帰りマ〜ス!」
大きな声で断られてしまった…
わたしをアパートまで送り、彼は「また明日」と笑って帰って行ってしまった。
なんと言うか…呆気なくて拍子抜けしてしまう…
彼の家での出来事は夢だったのではないか…とも思えてきてしまう…
でも…確かに感じる下半身の鈍い痛みが『夢ではない』と教えてくれる…
彼に触れた時に感じた暖かさ…抱きしめる腕の力強さ…
甘い記憶をなぞった…