第6章 真昼の夢(十四松)
十四松くんたちの部屋のソファーに座って、お茶を取りに行った十四松くんが戻って来るのを待っている。
さりげなく部屋の中を見回してみる…
押し入れの襖が外されてシャッターがついているなぁと気付いたり、壁に掛けてあるサーフボードを観察する…十四松くん、サーフィンするのかな?スポーツは何でも上手に出来そうだなぁ…
そんなことを考えていると、襖が開いて、麦茶らしきお茶の入ったコップを2つ持っている十四松くんが部屋に入って来た。
今日は袖がだぼだぼな黄色いパーカーに青い短パンを穿いている彼。いつも会うときはユニフォーム姿だから、なんだか新鮮だ。
「はい」
いつもの笑顔でお茶を手渡してくれる。
「ありがとう。急に来ちゃってごめんね」
そう伝えると、十四松くんは首を横に振る。
「ううんっ いつもの場所に僕が行かなかったから」
わたしの隣に腰かける彼。
体重がかかったことで、ギシリ…とソファーのスプリングが揺れる…
「…」
「…」
無言が続く…
「…今日はご兄弟はいないの?」
話に聞いていたむつごのご兄弟の姿が見えないので聞いてみると、
「うん、みんななんか今日はいないみたい、母さんも出掛けちゃった」
「…そっか、ちょっとご兄弟に会いたかったな」
「あはは、また会えるよ。家に僕だけ残ること、久しぶり」
…じゃあ今わたしと十四松くんはこの家にふたりきりなんだ…意識すると急に恥ずかしくなってきて、うまく彼と話せなくなってしまう…
しばらく沈黙が続いて… チラリと十四松くんの方に目線を移す…
十四松くんはいつも開いている口を閉じ、だぼだぼの黄色いパーカーの袖をつぐんだ口に当てて一点を見つめていた…
何か考え込んでいるようだ…
「十四松くん、どうしたの?」
恐る恐る声をかけると、彼はハッとしてわたしの方を向いた。
ふたりの目線が合う…
真っ黒な瞳が不安げに揺れている…昨日芝生の上で見た表情とおなじだった…
わたしもおなじ表情なのかな?
近くで見る彼は、つやつやと滑らかな肌をしている…
でも、首筋から肩にかけての逞しさは間違いなく異性で…こんなにも近くでそのことに気付いてしまったことが恥ずかしくて…
瞳を閉じた。