第6章 真昼の夢(十四松)
十四松くんみたいに寝転がって転がるのは恐いから、わたしは芝生の上に座ったままの体勢で滑り落ちてみた。
「わぁぁっ こわい! でも楽しいっ あははは」
思いの外、スピードがあってスリルがある。
「ゆいちゃんも寝転がったらもっと楽しいよ〜」
何度も何度も、寝転がったままくるくると転がり落ちる十四松くん。
「よし、じゃあわたしもやってみる」
ちょっと恐いけど、寝転がって落ちてみることにした。
「わあっ!こわい!」
わたしは十四松くんみたいにうまく転がれなくて、寝転がった体勢のまま坂の下の芝生まで落ちた。
「あはははは ゆいちゃんもできた〜」
わたしが落ちた場所のすぐ横に十四松くんが寝転がっていた。
ふたり並んで芝生の上に寝転がる…
十四松くんとはたくさん遊んだけど、こんなにも…肩と肩が触れあうほど近づいたのは初めてだった…
右側を向けば、すぐ目の前に彼の顔が見えるだろう…
なぜかすごく緊張してしまい、その場から動けなくなった…
「…ゆいちゃん…」
十四松くんの声がすぐ近くで聞こえる…
いつもより低く掠れた彼の声…
にわかに十四松くんが起き上がった。
わたしの身体に跨がるような体勢で、手のひらを地面について自分の身体を支え、わたしの顔を覗きこんでいる…
「…」
「…」
至近距離で見つめあう…
彼の頬はうっすらと紅いろに染まり、真っ黒な瞳は不安げに揺れている…
十四松くんのこんな表情見たことない…
どうしたらいいのか分からず、ただ胸の高鳴りを感じながら見つめあった…
どのくらい経っただろう…
「あははは… 起きたぁぁ」
ひょいと彼は起き上がり、いつもの調子に戻る。
「いやあ、ちょっとおかしくなっちゃった〜今日はそろそろ帰りマッスル〜」
「う… うん、そうだね。帰ろうか」
わたしも起き上がり、服についた草をはらう。
「じゃあゆいちゃん、またね〜」
彼はマッスルマッスル〜と歌いながら本当に帰ってしまった。
…わたしは…今まで感じたことのない胸の高鳴りとともに、ひとりその場に残されてしまった…