第5章 君と海の底へ(おそ松)
赤塚の町をふたりで歩く…
あっちに行ったら釣り堀があって…行きつけの銭湯はあの角を曲がったところ…こっちには大衆居酒屋があってね…兄弟全員が追い出されたハローワークはあの先…
身ぶり手振りで説明してくれるおそ松くん。
私は近くに引っ越してきて間がないから、あまりこの辺りのことは知らなかった…
おそ松くんの日常が少し見えた気がして嬉しいな。
楽しそうに話をしているおそ松くんの横顔を見つめる…彼は本当に笑顔が似合う人だ…
大きな瞳がきらきらして、歩くたびに前髪が揺れている…
私の視線に気づいたのか、おそ松くんがこちらに視線にを合わせた。
…不意に目が合って、心臓がひとつ大きく跳ねる…
目線を合わせたまま、彼はにこりと笑顔を向けてくれた。
つられて私も笑顔になる…
「おそ松くんと一緒楽しい」
今日は素直になれる、不思議だ。
「ほえ〜、今日はゆいちゃんが素直でかわいい…行き先を変更しちゃおっかな〜ホのつくとこに」
「だめだめ〜今日は水族館って決めたんだから」
そんなやりとりをしながら並んで歩いた。
ハタ坊さんの水族館は町の奥にあった。
フラッグコーポレーションのタワービルのふもとに、大きな青い建物…この辺りはあまり庶民は近づかない場所だから、こんな建物があったなんて知らなかった…
建物の中に足を踏み入れると、見渡す限り大きなガラス張りの水槽だった…
床も天井も壁も青色で、海の底にいるみたいだ。
水槽の中で色とりどりの魚たちが泳いでいて、水がゆらゆらと揺れる…陽の光を受けて天井や壁の青に反射の影が映っている…
「すごく…素敵だね…海の底にいるみたい…」
感動しておそ松くんにそう話しかけると、
「しかも今日は貸し切りみたいだよ〜ふたりでゆっくり楽しもう〜」
そう言って私の肩を抱き寄せて歩きはじめた。