第1章 これを恋と呼ぶのなら1(おそ松)
今日、コンビニ前を通ると彼がいなかった。
「あれ…いない…」つい言葉にだしてしまっていて、自分ではっとする。
今日は来ないのだろうか?心に不安が広がる。
ふと振り向くと、赤いつなぎ姿の彼が歩いてくるのが見えた。片方の目をつぶり、どことなく疲ているような…でも、彼に会えたことで心がふっと軽くなる。
「いた」
小さく呟き、ついじっと見つめてしまった。
彼と目があう。
「え?俺?」とびっくりした表情をする。
「あの…いつもビールを飲んでるから…その…今日はいなかったから、どうしてだろうと思って…」
素直に思ったことが少しずつ言葉になった。
彼は大きな瞳をしっかりと開き、瞬きをして私を見た。
「ああ、今日はちょっとパチ屋出るの遅くなっちって…」
彼は答える。初めての聞く声だった。
「…」
「…」
沈黙が重い…急にしゃべりかけてきっとびっくりさせてしまったよね…どうしよう…
なにか話さなきゃ…
「あのっ…ビールって美味しいですか?」
「へ?」
「私、ビールあんまり飲めなくて、いっつも美味しそうに飲んでるから…聞いてみたかったんです…」
…なんか変なこと聞いちゃったかな?緊張と不安で彼の顔が見られない…
「…ビール、うまいよぉ。こんなうまい飲みもんないね、おねえさんも飲んでみる?」
彼の声にはっとして顔をあげる。
鼻の下を人差し指で擦りながら、人懐っこい笑み…
目の前に飛び込んでくる。
どくりっ と胸が高鳴った。