第4章 僕は君の猫(一松)
「一松くん、会いたかった…」
部屋に着くとすぐにゆいさんは俺の胸の中に飛び込んできた。
俺の胸板に頬を押し付けている…
背中に彼女の腕が巻き付き、手のひらの感触を感じた…
甘いにおいが香る…ずっとずっと触れたかった彼女…
思わずゆいさんの肩を掴み、艶やかな髪を撫でて、柔らかい唇にキスをした。
深く深く長い口付けをし、息がお互いにもたなくなる頃、唇を離して見つめあう…
気がつけば、俺の目からは冗談みたいな量の涙が溢れ出ている…
「…っ…こんな奴でごめん…」
止めどなく流れる涙を拭うこともせず俺は言う。
「どうしてそんなことを言うの?謝るのはわたしの方だよ…一松くんを傷付けてしまった…」
彼女の頬にも涙が伝っている…
「わたしね…一松くんと出会った時、仕事とか人間関係とかで色々辛くて。一松くんなら癒してくれるんじゃないかと思って声をかけた。わたしは弱い人間なの…」
彼女は涙を指で拭いながらそんな話を始めた…
「でも、きっかけはどうであれ、一松くんはとってもミステリアスできれいな男の子だから…仲良くなりたかったし、触れてみたかったのは本当だよ」
「…」
「一緒にいるうちに一松くんの存在がどんどん大きくなって…独り占めしたくて…でも、わたしは8歳も歳上だし…一松くんの重荷になってしまうって思って…離れなくちゃって思った…そんな時に転勤の話が出たの」
「…僕こそ弱い人間だよ…人と関わるの恐くて仕方ないし…ニートだし…先が見えないよね…俺といても…」
涙で言葉を詰まらせながら話す…冷静に見たら、きっと滑稽な姿だろう…でも、これが今の俺の精一杯だった。
「一松くんは優しい子だよ。それに賢いし、直感がすごく冴えてる。自信を持って直感を信じて生きていけば大丈夫だから!」
ゆいさんは俺の頬を撫でながら言う…
「一松くんは、きっと幸せになれるよ…自分をもっと愛して、信じてあげてね…約束だよ」
そんな言葉をくれた。
俺たちはしばらく見つめあったり、抱き合ったりしていた。
最後にありがとうとさようならを伝えて、俺は家に帰って来た。