第4章 僕は君の猫(一松)
「一松くん…わたしね、転勤が決まったの」
ゆいさんがそう告げたのは、いつものようにふたりでベッドに入った後、何か食べようかなんて話していた時だった。
「え…」
ベッドに並んで腰かけ、俺はシャツを羽織ったところだった。
ぴたりと動きを止め、右隣に座る彼女を見た…
でも、どんな表情をしてるかなんて恐くて見られなかった…
「○○県に転勤だから…もう会えないと思うの」
「…」
関係を持ってからどのくらい経っただろう…クソ童貞は卒業したけれど、こんな時に何て伝えたらいいのか、俺は相変わらず分からないままだった…
「お別れだね」
彼女はそう告げた。
「僕と一緒にいても未来なんかないし、良かったね」
彼女は勢いよく振り向き、俺を見た。
その目は驚きで大きく見開かれている…
「だいたい僕はニートだし、社会からはみ出したクズなんだし、ゆいさんにはもともと釣り合わなかった」
「…一松くん…」
「親のすねかじって、先も見えないのにセックスして、最低だよね。ほんとただの燃えないゴミ」
「やめて…そんなこと言わないで…」
ゆいさんは泣きそうな顔をする…こんな顔初めて見た…
気の利いたことは何も言えない…どうしようもないよね…
…何も聞きたくないし話したくない…もう何もなかったことにして、家に帰りたいっ…
ジャージを掴み、穿きながら玄関へと歩く。
「待って!行かないで…!」
大きな声で彼女が止めるのを聞かず、荒々しくサンダルを履き、玄関の外へと飛び出した。
その勢いのまま、俺は走った。
夜道に自分の荒々しい息づかいがやけに耳につく…
気持ち悪い…俺、ほんとにクズ…
立ち止まり、ぼろいサンダルを履いた足元に視線を落とす。
ぽたり…と何かの滴が落ちる。
その時に気づいた…俺の頬は流れる涙でびしょ濡れだった。
ほんっとダメ…消えてしまいたい…
誰にも知られず…むせび泣いた。