第4章 僕は君の猫(一松)
浴室の壁にもたれ掛かり、頭から熱いシャワーを浴びる…
「わたし、ゆいっていうの。名前で呼んで」
手を引かれて歩いている途中、彼女はそんなことを言った。
「あなたの名前は?」
「……一松」
「いちまつくんっていうんだね、かわいい名前…よろしくね」
「…」
こんな時にどんな風に会話したらいいか分からない…ほとんど兄弟とばかり過ごしていた俺には、初めて話す女の人との会話を膨らませることなんてできっこない…荷が重すぎる…きっとつまんない奴って思われるだけ…あぁ…逃げたい…この場から消えてしまいたい…
「そんなに緊張しなくていいよ、もうすぐわたしの部屋だから、お風呂入っていってね」
少し歩くと、小さな白い建物に着いた。
ゆいさん…の部屋に着くと「風邪をひいたら大変」と、すぐに風呂場に押し込まれてしまった…
…知らない女の人の家で風呂に入ることなんてもちろん初めてで…どんな顔して出ていけばいいのか…
風呂場を出て、ゆいさんと顔を会わせずにこの家の中からいなくなってしまいたい気持ちと、初めて嗅ぐ女の人の部屋のにおいをもっと嗅いだり、少しでも彼女に触ってみたいなっていうエロい気持ちが心の中でせめぎあっていた。
まったく、こんなカースト最下位のクズのくせに、人並みに性欲があるもんだからぞっとする。
シャワーの湯を止めて脱衣場に出ると、すぐ目の前に洗濯機があった。
その洗濯機の上にバスタオルと紫色のシャツ、黒のスウェットが畳んで置いてあった。…ご丁寧にグレーのボクサーパンツまで…
これを着ていいってことかな?
恐る恐るバスタオルを手に取る…
服を身に付け、廊下に出ると目の前にゆいさんがいた。
俺の身体はあからさまにビクッと揺れたと思う…
「あんまり遅いからなんかあったのかと思って…大丈夫?」
「…スイマセン…」
何故カタコトなんだっ 消えたい…
「元気ならいいの、向こうの部屋にミーコいるから会ってあげて。いちまつくんの服は洗って乾燥機かけとくね、わたしもお風呂入っていい?ミーコとゆっくりしててね」
そう告げて、風呂場に入っていく彼女…
えっ えっ どうしよう、風呂?