第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
店を出る。
『…帰る?』
『及川君は?』
『どっちでも。』
『考えてみたらさ、』
綾ちゃんは、空を見上げて。
『今、私、人生で最大の挫折かも。
こういう時、
どうしていいかわからないなぁ、って。
なんか、
及川君とか光太郎君とかって、
挫折とか、失敗とか、
泣きたくなることとか、なさそう。』
『俺?』
振り返ってみたら、笑えた。
挫折ばっかり、じゃん。
いつも、
目の前のあと一歩に手が届かない。
『挫折の積み重ねだよ。
今日よりもっと、落ち込んだ日もある。』
…最後の春高予選で烏野に負けたときは、
多分、今日より辛かった。
あの仲間との最後の戦いで、
それまで負けたことのなかった烏野に、
…トビオに…負けて、
一番、倒したかった牛若とは
戦うことさえできなかった。
それに比べれば、
今はまだ、これから上がるチャンスは
確かにある。
なのに今、
なぜこんなに苦しいかといえば、
『今までは、すっげー辛かった時でも
一緒に泣いたり悔しがれる仲間が
たくさん、いたんだよね。』
遊び仲間でもあった、マッキー。
いつも黙って支えてくれてた、まっつん。
幼馴染みで、大事な相棒の、岩ちゃん。
育てがいのある、後輩。
ベンチにすら入れなくても
俺達と同じくらい
喜んだり悔しがったりしてくれた、
湯田っち達、控えのメンバー。
みんな、仲間だった。
『光太郎君は?仲間じゃないの?』
『コタローちゃんは…』
今、俺の周りにいるのは、
チームメイトで相棒で、
そして…みんな、ライバルだ。
一人、選ばれれば
一人、落ちる。
木兎が綾ちゃんと別れない限り、
綾ちゃんは、俺のものにはならないし。
『コタローちゃんは、仲間じ…』
仲間じゃない。
そう言おうとした俺の言葉の上に、
綾ちゃんの声がかぶさる。
『光太郎君は、及川君に
すっごく感謝してるんだって。』
…仲間じゃない、って
言わなくてよかった…
『感謝?』
『高校の頃の仲間がいなくても
光太郎君がすぐに力を発揮できたのは、
及川君が最高のセッターだから、って。
スパイカーの望みを100%叶える為の
努力の天才だ、って。』
…やめてくれ。
俺、今、木兎のこと、
"仲間じゃない"って言おうとしたんだ。
ますます、自分が悪魔に思えるよ…