第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
しばらくは俺だけだった客も
そのうち少しずつ増えてきて、
早い時間に来た客は
ここで待ち合わせて次の店に行き…
その次の時間帯の客は
少し酔ってやってきて、
クールダウンして次の店に向かう。
周りは、動いてる。
周りは、変わっていく。
barの片隅にいる俺だけ
何も、変わらなくて。
2杯目も
『ジントニック、もう一杯。』
目の前にグラスを持ってきたマスターは
『今夜の及川様は、充分、"強い意思"を
持っていらっしゃるように見えますよ。
…女性でもチャンスでも何かの結果でも、
手に入れるには、何より、
強い意思と忍耐がいります。』
『…そうかもしれないけど…
決め手になるのはいつも
努力では手に入らない、運と勢いの気がする。』
『一番、目立つ部分はそうですね。
でも、それだけでは続かないですよ。』
そうだろうか。
俺には、何が足りない?
2杯目に口をつける。
最初のうちは
入り口のドアが開くたびに
そっちを見ていたけれど、
もう、今はそれもやめた。
来てほしいのかどうかも
わからなくなってくる。
もしかしたら、
俺の自己満足なのかもしれない。
…そんなことを思いながら、
どれくらいの時間がたっただろう。
『…及川様、』
マスターが、そっと近寄ってきて
『お待ちの方ではありませんか?』
入り口に、
一人で立つ綾ちゃん。
…表情のよめない顔をして。
店内を見回し、俺を見つけて、
びっくりした顔をし、
そして、少し、笑った。
黙って片手を上げた俺に
ゆっくりと、近付いてくる。
『…いつからいたの?』
『つい、さっき。』
『…うそつき…彼と同じもの、下さい。』
そして、隣に座る。
それからしばらく黙ったままで…
『ジントニックです。』
マスターが置いたグラスを
軽く持ち上げて。
『ね、及川君、乾杯、しよっか。』
『…そうだね。』
何に、乾杯しようか?
出遅れた二人に?
つまづいた二人に?
選ばれなかった二人に?
羽ばたけなかった二人に?
どれも事実なんだけど、
言葉にするのは勇気がいる。
『…とりあえず、それぞれの、春に。』
乾杯。
グラスの中の透明な液体が
ユラリと揺れる。
それは、
まだ未来に何の色も見つけられない
自分達の心のようだった。
…こんなに、清々しくないけどな。