第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
…真っ直ぐなヤツって知ってたけど。
『ね、コタローちゃん、
とにかく土下座、やめて!』
地面にくっついてる木兎の頭を
両手で押し上げる。
上目遣いの瞳。
いつもより光が弱い。
『許してくれる?相棒。』
『許すも許さないもないから。』
膝についた砂を
パンパン、と、払いながら
立ち上がる木兎。
『よかったぁ。綾も相棒も
いっぺんに失うんじゃねーかと思って焦った。
やっぱウソなんかつくもんじゃねぇな。
…あー、ホッとしたら喉、かわいた。
な、ヒトクチ、ちょーだいっ。』
俺が差し出した缶ビールを
グビグビグビ…と、うまそうに飲む。
『あ、わりぃ。全部、飲んじまった!』
…イチイチ、笑える。
木兎にかかると、
小さなことも大騒ぎになるんだよな。
外灯のほのかな光の下、
体育館前の階段に、ならんで座る。
『コタローちゃんでも、
そんな気持ちになったりするんだね。』
『そんな、って、どんな?』
『言い出せなかったり、とか。
俺が選んだと思われたらイヤだ、とか。』
『そりゃ、俺が選んだのより
オイカワが選んだ方が好みだったらさ、
なんか、俺よりオイカワの方が
綾のこと、よくわかってるみたいで
悔しいじゃん。だって、俺の彼女なのに。』
口を尖らせて。
ちょっとイジけてるところが
すごく人間らしい…
悪魔みたいな俺と違って(笑)
こんな顔をされてしまったら、
本当は言わないつもりだったけれど、
言ってやりたくなるじゃん。
『あのさ、綾ちゃん、言ってたよ。
あのネックレス、
コタローちゃんのイメージと違ってて、
驚いたけど嬉しかったって。
でも、もしスカルだったとしても、
それはそれで、コタローちゃんらしくて
きっと嬉しい、って。』
『マジ?』
『うん。
ついさっきそう言ってたから、本当だよ。
何をもらうか、ってことより、
コタローちゃんからのプレゼント、
ってだけで嬉しいんだ、って。』
『そっかぁ。』
こんなに静かに木兎と話したの、
初めてかもしれない。
チラリと横を見る。
後ろに両手をついて、
階段に足を伸ばして、
首を反らせて空を見上げて。
…のびやかな、大きな身体。
月の光で充電でもしているように
ゆるやかにほどけた表情。
ここに、
まだ、俺の知らない木兎がいる。