第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
二人して無言で体育館を見上げていると、
どこからか、女の子達が集まってきた。
『あ、いた!及川君!』
『及川先輩、探してました!』
『及川さん、卒業おめでとうございます!』
…女の子に名前を呼ばれると、
条件反射でこぼれる、自然な笑顔。
これって、俺の才能?
とびっきりの王子さまスマイルと
キラキラボイスで答えてあげなくちゃね。
『はぁい、みんな、待っててくれたの?
嬉しいよ、ありがとう!
もう、あげられるものもないんだけど…
サインだったらするからね!
写真?もちろんOK!さ、並んで、並んで!』
…離れたところから、
相変わらず眉間に皺寄せて
こっちを見ている岩ちゃん。
言いたいことは、わかってる。
『うわっつらで、人と接するな』でしょ?
違うんだって。
みんなのことが、本当に大切なんだよ。
例え、俺の見た目や
バレーをしている姿だけで
騒いでくれてるとしてもかまわない。
俺の人柄なんて、知らなくていいんだ。
人気なんて、永遠には続かない。
そして、俺は
…及川 徹は…天才じゃない、残念ながら。
だから、あらゆる努力をする。
技術はもちろん、
自分に価値を持たせるためなら何だって。
そのために、一人だけからの深い愛より
うすっぺらくてもいいから
たくさんの声援が必要なんだ。
そして、今度こそ、
俺は、あいつらをぶっ潰す。
高校最後の日、
俺はたくさんの女の子に囲まれながら
改めて、そう思った。
とりあえず、
今、一番大事なのは、バレー。
それは 間違いない。
さよなら、高校生活。
ここでつかめなかった目標を
手にいれるために、行ってくる。
もうすぐ夕暮れに包まれる体育館に
たくさんの感謝と思い出と
大きな悔しさを残して、
俺と岩ちゃんは、
青葉城西高校を後にした。