第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
…ガガガ…
扉の開く重たい音。
『ウェーイ』『っしゃーっす』
さっきの女の子達とは違う
聞き慣れた、野太い声。
そして、キュキュ、と
シューズが床を擦る音。
後輩たちだ。
在校生にとって、この時間は放課後、
…部活動の時間。
3年過ごしたこの体育館で
昨日までは俺達も、
後輩の練習相手をしていた。
でももう、今日からはここに
俺達の居場所はない。
結果は出せなかった。
それでも、次のステージへ。
新しい環境で、
新しい仲間と、
新しい目標に向かって
動き始めなくては。
『行こう、岩ちゃん。』
『あぁ。』
『まだ女の子達、いるのかなぁ。
岩ちゃん、好みの子、いたら、どうぞ。』
『俺はお前と違って彼女一筋だ。
お前のおこぼれなんか、いらねーよ!』
そんないつもの会話をしながら
二人で会議室を出て、
監督とコーチに挨拶をし、
後輩たちに最後のエールを送って、
体育館を後にした。
…黙ったまま歩き始めたけど、
二人ともふと足が止まり、振り返る。
見上げた体育館が、
タイムカプセルに見えた。
次にあの扉を開いた時、
俺はどんな風景を思い出すのだろう。
…少しの沈黙。そして…
『おい、』
『なにさ。』
『次、ここ来る時は、
本物のスターになってろよ。』
『あったり前じゃん!
そのための東京だよ!!』
…また、沈黙。そして…
『おい、』
『今度はなにさ?』
『思い詰めてオーバーワークすんなよ?』
『わかってるって。』
『敵ばっか、見てんじゃねーぞ?』
『…もーっ、わかってるって!
岩ちゃんは俺の、お母ちゃ…』
『俺は、お前の、相棒だ。』
うん。
岩ちゃんは、俺の相棒だ。
だから俺、
岩ちゃんの分までやってくる。
…そんなこと、恥ずかしいから
絶対、言わないけどね。