第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
子どもが大勢でわいわい
飯を食うのと同じ空間で、
高校生や大学生が勉強を教えたり
一緒になってゲームをしたり、
おばちゃん達は
まるで孫でも可愛がるように
我が子のお下がりを持ってきて
サイズをあわせて繕ってやったり、
風邪をひいてる子の心配をしたり、
大人が酒を飲みながら
(あ、アルコールは持ち込み。
しかも空き缶空き瓶は持ち帰り厳守 笑)
中学生や高校生にエロ話をしてみたり、
反抗期のヤツラをおちょくってみたり…
俺が小さい頃から、
いろんな人の家や店で
毎日のように過ごしてきたような景色が
今、ここで、当たり前に、ある。
…俺はホントに、
"皆の家"で育ったんだな。
ここはホントに、
"みんなのいえ"になれたんだな。
そこを作ったのが
母さんと綾ちゃんであることが、
本当に、誇らしい。
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『大人も子どもも、ここではみんな
家族みたいな存在なのね。』
『うん。血の繋がりとか関係なく。
だからルールも、家族ならではなんだ。』
『あぁ!さっきの?
"エレベーターはお客様のものだから
家族は階段を使う"っていう…』
『そう、それと、ほら、これ。』
看板を、指差す。
『?』
『ここに入るときは誰でも、
こんにちわ、とか
お邪魔します、じゃなくて、
大きな声でコレを言うのが、約束なんだ。』
家に帰った時の、最初の一声。
それがこの店の名前、
"ただいま"
彼女が、ふと思い付いた顔をする。
『…あ、そういえば、うちのお店は…』
『そうなんだよ。
俺も最初から、それ、思っててさ。
こことペアみたいだろ?
…なんか、繋がってるみたいじゃん。』
嫁さんが前の旦那さんと開いた小料理屋の
店の名前は
"おかえり"
結局、旦那さんは
病院から1度も帰宅できなかったけど、
そこに来るお客さんみんなを
自分達が手離してしまった"家族"のように
迎えたい、という気持ちが伝わってくる。
『長々と立ち話してごめん。中、入ろう。』
『うん…ねぇ、私、初めてだけど、
"ただいま"って言っていいのかしら?』
『もちろん。
たまには迎えてもらう人の気持ちも
味わったらいいじゃん。』
ドアを開ける。
そして、
奥に向かって、声を揃えて。
『ただいま!』