第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
まず母さんは、
"究極の隠れ家"がウリだった"一人静"の
コンセプトを一変。
名前はそのままに店の場所を変えて
大きな(そして割と高級な)クラブにし、
同時進行で
同じビルの2階に広いスペースを借りた。
そのスペースを任せるのは、
もちろん綾ちゃんだ。
コーヒー屋をたたみ、パートも辞めて、
この仕事に全力で取り組みたいと言った
綾ちゃんには、
既にここで実現したいアイディアが
山のように思い浮かんでいたらしい。
『お店の人の子どもだけじゃなくて、
お腹のすいてる子には誰でも、
ご飯、食べさせてあげられないかしら?』
『奥に和室みたいなスペースがあったら、
ご飯食べてお母さんが迎えに来るまで
眠って待たせてあげられるんだけど。』
『塾とか行けない子も多いだろうから、
ここで待ってる間に、宿題とか勉強とか
年上の子が見てあげたらいいんじゃない?
そのためにも、子どもだけじゃなくて
大人とか大学生も、食事がてら
ふらっと立ち寄れるような場所に
出来たらいいんだけど、どうかな?』
…長かった"主婦歴"を活かし、
綾ちゃんならではの視点で
次々と浮かぶアイディア。
その一つ一つを二人で話し合い、
実現するために必要なものは
"一人静"に来るお客さんに
商材を提供してもらったり
資金繰りのコツを教えてもらったり
人脈をつないでもらったり…と、
長年の"ママ歴"を持つ母さんが、
仕事を通して手に入れてくる。
『子どもの心配が少なければ
働く人も仕事に専念できるし、
職場の環境が良ければ
長く働いてもらえるから、
結局全部、お店のためになるのよ。』
…と、綾ちゃんのアイディアを
ビジネスに繋げて実現する、母さん。
『話し相手がいるところで
お腹いっぱい、あったかいご飯食べれば
親が夜まで働いてたって、
子どもは悪いことなんかしないわよ。
いっちゃん見てれば、間違いないって。』
…と、今でもやっぱり
誰かの飯のことを考えてる綾ちゃん。
二人のそれぞれの特技や
歩んできた人生で得てきたものが
見事にマッチしたこの構想は
あっという間に形になり、
そして、ここ、
"みんなのいえ 〜ただいま〜 "が
オープンした。
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