第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
トンッ、トンッ、トンッ…
カタン、カタン、カタン…
階段をあがる俺達のうしろから
リズミカルな音が近づいてきて、
やがてその音が俺たちを追い越し、
そして、踊り場で、振り向いた。
ランドセル姿の小学生。
『あ、いっせー兄ちゃんだ!』
『おぉ、久しぶり!背、伸びたな!』
『うん、もう、130センチあるよ!』
『そっか。バレー、やんねーの?』
『やーだ、俺はサッカーが好きだもーん。』
そう言いながら、
トンッ、トンッ、という軽やかな足音で
カタン、カタン、とランドセルを弾ませ、
階段を駈け上がっていった、小さな背中。
姿が見えなくなってすぐに、
キーッ、というドアが開く音と
そして
"たっだいまー!"という、元気な声がした。
『知り合いのお子さん?』
『んー、まぁ、そんな感じかな。』
知り合い、というか、
家族、というか。
俺と彼女も階段をのぼり、
2階の端っこのドアの前に到着した。
『ここなんだけど。』
『ここ?』
彼女に、ドアの横の小さな看板を見せる。
少し低めにつけられた、
そして、全部、ひらがなで書かれた看板。
" みんなのいえ 〜ただいま〜 "
『何屋さん?』
『何屋…っていうか、
看板のとおりなんだけどさ。』
そんなことを話していたら、
また、階段から足音がした。
今度、現れたのは、
学ラン姿の中学生。
『あれ、いっせー君じゃん?』
『おぅ、久しぶり!声、低くなったなぁ。』
『まぁね。…それ、彼女?』
『昨日までは。今日から、嫁さん。』
『ふーん…見せびらかしに来たんだ。』
『そ。いーだろー。お前、彼女は?』
俺の問いには答えず、ニヤリ、と笑って
"ただいま~"とドアの中に消えていく。
『あ、ごめん。思春期、ってやつ?
悪気はないから許してやって。』
『全然、かまわないけど…
彼も、知り合いのお子さん?』
『うん、まぁ、そんな感じ。』
さっきと同じ答えをする俺に、
さっぱりわけがわからない、
…という表情の彼女。
だろうな(笑)
『ここはさ、』
ここは、
俺が家を出てからの、
母さんと綾ちゃんの
生活の中心で、
働く目的で、
二人のこれまでの人生の
集大成の場所、なんだ。