第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
俺と彼女は、
"担当患者の遺族と病院関係者"という
ちょっと微妙な間柄だったし、
俺も彼女も派手なことは苦手だし、
彼女は前の結婚で駆け落ち同然だったから
親や友達と関係を絶っていたこともあって
結婚式や披露宴は、やらなかった。
(それどころか俺は、
結婚したことを友達にも言わなかった。)
だけど俺には、
(血の繋がりはないけど)
"家族"が多いから
俺の結婚を喜ぶ人がたくさんいるわけで…
『一静さん、私、大丈夫かしら?
年上だし、再婚だし、
うちの親とは絶縁してるし…』
『あぁ、全然心配しないでいいよ。』
今日は、
彼女の元旦那さんの2度目の命日で、
俺たちの結婚記念日。
市役所に婚姻届を出したその帰り道、
初めて、
彼女を俺の“家族”に会わせに連れてきた。
彼女自身が家族の話をしたがらないから、
俺も、自分のことはほとんど話してない。
彼女が心配しているようなこと
…再婚とか年上とか家族との因縁とか…
そんなことにガタガタ言えるような
無傷な人生を送ってる人はいないから、
彼女を歓迎してくれることは
間違いないけど、
ちょっと普通じゃない"俺の家族"に
彼女がびっくりすることも
きっと間違いない(笑)
『…家、この辺なの?』
夜の街に向かって歩いてたら
彼女が心配そうに訊いてきた。
『家は、また後で連れてくよ。
ちょっと、家じゃおさまらなかったみたいでさ…』
『おさまらない?なにが?』
『うん、あれこれ(笑)』
そんなことを話しながら、
俺の子どもの頃からの"庭"である
夜の街をゆっくりと歩き、
一軒のビルに到着した。
『ここ?』
『うん。ここの、上。』
エレベーター…の前を通りすぎ、
奥の階段に抜ける重いドアを開ける。
『階段?エレベーター、あるのに?』
『うん。悪いけど、2階だから階段使って。
…エレベーターは"お客さん"のもんだから、
"家族"は階段を使うこと、ってのが、
うちのルールなんだ。
今日から俺ら、家族ってことで。いい?』
『もちろん!なんだか、
筋の通った見習いたくなるルールね。
ご家族に会うのが、楽しみになってきた。』
『"家族"つっても、
まぁ、うちも、ちょい複雑だけどさ(笑)』
そんな話をしながら、
コンクリートの階段を、ゆっくり、あがる。