第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
その人は、
家族より、ふるさとより、
大切な人との人生を選び、
すべてを捨てて新しい人生に懸けたのに
その大切な人を病気で失った人。
想いを込めてつけた名前の店で
一人で頑張っていて、
だけど生き甲斐を失って
なかなか前に進めなくて、
弱さと寂しさと切なさと
頑固さと芯の強さを
俺にそっと見せてくれながら、
俺においしい飯を作ってくれる、
俺より年上の、
つまり、
母さんと綾ちゃんを
足して2で割ったような人、だった。
俺がその人の寂しさに
自然に寄り添えたのも、
その人に惹かれたのも、
その人の想い出全部を
一緒に受け止めてあげたいと思ったのも、
大人の世界を見ながら、
いろんな形の
家族や愛情に囲まれて育った俺にとっては
とても自然な流れだったんだと思う。
…つまり、
俺がこの人に出会えたのは、
俺の"両親"から受け取った
人の縁のバトン、なわけで。