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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)




俺と母さんの間をほどよくかき乱し、
ほどよく柔軟な関係に戻してくれたのは、
綾ちゃんだ。

綾ちゃんがいなかったら、
きっと俺は今でもどこか少し、
母さんに遠慮したままだったと思うし、

逆に、綾ちゃんにとって、
俺や母さんの存在が力になっていたことも
俺は知ってる。

だから。

『そんなことよりさ、』

『なぁに?』

『母さんのこと、頼むね。
…なんか、燃え付き症候群、的な感じで
俺、なんとなく、心配なんだけど。』

『そりゃ、大きな支えが1度に2つとも
遠くにいっちゃうんだもん。
しばらくは落ち込んで当たり前よ。

でも、静はきっと大丈夫。
こっちのことは心配しないで
いっちゃんはいっちゃんの大学生活を
満喫していらっしゃい!』

『うん…綾ちゃん、頼りにしてる。』

『それよりいっちゃん、独り暮らししても、
ちゃんとご飯、食べるのよ?』

笑ってしまう。

『まだ飯の心配?』

『だっていっちゃん、
卵もロクに割れないから。』

『それ、一生、言うつもりかよ(笑)』

『お腹すいたら、いつでも帰っておいで。
ハンバーグでもオムライスでも、
なーんでも作ってあげるから。』

『…うん、わかった。』

もちろん、そうそう簡単には帰らない。
けど。
待っててくれる人がいる、ってのは
こんなにも心強いものなんだ、って
もう、俺、知ってるから。

だから、ギリギリまで頑張れるはず。

『もう、駅、そこだから。切るよ。』


いろんなことがあった。

いろんなことを教えてもらったし、
いろんな場面で支えてもらった。
いろんな気持ちを開いてくれた。


『綾ちゃん、』

『なぁに?』

『…行ってきます。』

『はい、行ってらっしゃい!』

…普通の挨拶に、なってしまった。

俺の、
ホントの意味での初恋の人に
最後に言いたかったのは、

"いってきます"じゃなくて
"ありがとう"だったのに。

なんか、よそよそしくて言えなかった。
もう会えなくなりそうで、言えなかった。

…ま、いっか。
もう、綾ちゃんは、
俺の好きな人、じゃなくて
家族と同じ存在、だから。

"いってきます"
"いってらっしゃい"

…って出ていけば、

"ただいま"
"おかえり"

…っていう次が、あるもんな。


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