第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『綾をヨロシク~!
俺のグッドアピール、頼んだぜっ。』
練習のあと、
木兎は手を振って去っていった。
なんでも今日は、
高校時代のバレー部の仲間と一緒に
OBチームの練習試合の助っ人らしい。
木兎を見送ってから
少し憂鬱な気持ちで綾ちゃんに電話して、
初めて3人で会った居酒屋で待ち合わせをする。
ここなら、どう考えたって
間違ったムードにはならないだろ。
『私、ジンジャーエールにしよ。
及川君は?ビール?』
『…ウーロン茶。』
『え?飲まないの?』
『やめとく。何かあったときに
綾ちゃんを守れないと木兎に殺される。』
『何かって、なに~(笑)
大丈夫でしょ、飲めばいいのに。』
…本当は、俺自身がその"何か"に
ならないように、なんだけど。
こんな我慢、生まれて初めてだ。
そんなわけで
『じゃ、なぜだか二人の晩御飯に、』
『カンパーイ!』
手元のジョッキには
ジンジャーエールとウーロン茶。
『高校生みたいだ。』
笑いながらグッと喉を潤し、
食べ物もあれこれ注文し、
メニューを閉じると
シーン、となる。
…綾ちゃんが言った。
『あ、天使が通った!
こういう、急にシーンとなった時、
そうやって言わない?』
『え?幽霊が通った、じゃない?
俺らの住んでたとこは幽霊だったよ。』
『幽霊は通らないで欲しいなぁ!』
『…天使にしとく?』
『どっちでも、いいね(笑)』
なんだろ、このフツー感。
"俺に興味のない女の子"と話すのは
こんなに気が楽なのか…
"及川王子"でいる必要がない、って
こんなに楽なのか…
別に、世界中の女の子が
俺のことを王子だと思ってる訳じゃ
ないってわかってるけど、
それでもどこか、
女の子の前では"カッコいい俺"で
いるべきだって思ってた。
気取らない居酒屋メニューと
酔いに任せないソフトドリンクで
彼女と話せば話すほど
まるで家族と話してるみたいに
気持ちがラクで…
彼女は言った。
『及川君、ごめん、私、誤解してた。
こんなに笑う人だって思ってなかったし
もっと格好つけた、感じ悪い、
鼻につくイケメンだって思ってた。
ホントはすごく、フツーの男子だね。』
…嬉しい、なんて思っちゃダメだぞ、俺。
この安らぎは、木兎のものだ。