第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
弁当、いらない理由、何て言おう。
"彼女が作ってくれるから"って
本当のことを言っても、
きっと綾ちゃんなら
サラッとわかってくれるだろうけど、
なんか、
俺から彼女に"作って欲しい"って
リクエストしたと思われたくねぇな、
とか、
綾ちゃんの作る弁当に飽きた、
みたいに思われたらヤだな、
とか、
あれこれ考えてしまって、
どうするか決めきれないまま
家に着いてしまった。
『…ただいまー。』
『おかえりー、ちょうどよかった!』
キッチンから、綾ちゃんの声。
『そろそろ帰るかなぁ、と思って
ハンバーグ焼き始めたところ!
熱々食べさせたいから、いっちゃん、
すぐお風呂入っておいで!』
『あ、うん。』
こっちも、その方が都合がいい。
弁当の話は、飯、食いながら、
タイミング考えよう…
風呂場まで届くいい匂いにつられて
早目にあがり、キッチンへ行く。
『いっちゃん、グッドタイミーング!
どれも出来立て!さ、食べよう!』
『…なんか、誕生日みたいだな…』
俺の好きなものが、テーブルにずらり。
『そう?私が作りたいもの作っただけ。』
いつも通り、綾ちゃんと、晩飯。
『いただきますっ。
あ、なめこの味噌汁、久しぶり!
ポテサラ、ハム多い~っ。
…おおっ、ハンバーグ、チーズ入りじゃん!
きゅうりの酢の物にシーチキン、あう!
グラタンまで?!お子さまランチかっ?
あー、このセロリと鰹節のヤツっっ!
やべぇ、白飯、無限に食えそう…』
『たくさんあるから、おかわりしてね。』
いつものように、
ニコニコ見てる綾ちゃん。
食べながら、俺はいつもみたいに
学校や部活の話をして。
『あー、ごちそうさま!
綾ちゃんの飯、いつもうまいけど、
今日はなんか特別だった気がする。
絶対、定食屋、やってほしい!
俺、毎日、食い行くから。』
『…ありがと。いっちゃん、褒め上手。』
『いや、マジで!及川達と
ラーメン屋、行かなくてよかった。』
『あら、そうだったの?
そういうの、遠慮しないで行っていいのよ。
外で誰かと食べる時間って、栄養とかとは
また別の大切さよね。』
『いや、俺は綾ちゃんの飯が…』
言いながら、思いだす。
弁当のこと、言わないと。