第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『及川、』
『なにさ?』
『春高、行くぞ。』
今、この瞬間まで
ただのふざけたチャラ男だった
及川の目がキラリと光る。
『当たり前じゃん。
このチームで行かなくていつ行くの?
烏野蹴散らして、白鳥沢ぶっ倒して、
今年こそ、青城が…俺らが、
オレンジコートに立つよっ。』
俺には俺の。
及川には及川の。
それぞれ、春高に懸ける思い。
いつものハードな練習も、
目的があればやりがいがある。
…練習してる時は、
余計なことあれこれ考えなくていいし。
練習が終われば、
途端に現実だらけなんだけど。
『うー、腹減って動けない…』
『花巻、今日は特に動かされたからな。』
『ねぇねぇ、ラーメン食べに行こうよ!』
『昨日もラーメンだっただろ!
…ん?エロ川、もしかしてお前、
あそこの新しいバイトの子狙いか?』
『さすが岩ちゃん、わかってるぅ!
あの子、かわいいよねー!』
『何でもいい、腹、減った…』
いつも通り賑やかな帰り道。
『まっつん、ラーメン、行こ!』
『んー、どーすっか…』
昨日のこともあるし、
俺の浮気を疑ってる、
…という話も聞いたから
彼女のことが気になる。
スマホを取り出してみると、
LINEがきていた。
写真。黒い弁当箱。
メッセ。
"センパイのお弁当作ろうと思って
お弁当箱、買っちゃった~!"
…なるほど、
そっちからのアピールか。
とりあえず、返事。
"楽しみにしてる。肉、多めで!"
すぐに既読がついて、返信。
"頑張るから、楽しみにしててね!"
…この早さからして、
俺の返事、待ってたんだろな。
『松、ラーメン、どうする?』
『わり、今日は、帰る。』
『ムムム、またもやリア充の雰囲気っ!』
『いや、違うけど。』
『いや、松は彼女んとこ行った方がいい。
浮気の疑い、晴らしてこい。
及川のくだらねぇヤキモチは気にすんな。』
『失礼だなっ、ヤキモチじゃないしっ!
あの子が、俺を、待ってんのっ!』
『及川のヤキモチなんかどーでもいいから
早く行こーぜっ!腹減って倒れる…』
『花、わりぃ、また今度。』
『あぁ、彼女と仲良くな。』
アイツらと別れて1人で歩きながら
俺が考えていたのは、
彼女のこと、
…ではなかった。
早く帰って、綾ちゃんに
"明日、弁当いらない"って言わないと。