第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
カラオケ?
『俺、あんま、歌わねぇけど、いい?』
『一緒にいられれば、どこでもいい!』
もう映画もみたし、
ブラブラ買い物とかも興味ねぇし、
『じゃ、カラオケ、行くか。』
日が暮れて、駅の近辺を歩くのも
夜の気配をまとった人が多くなる。
母さんはもう、仕事に行く頃だ。
夜の街の風景を見たのは久しぶり。
…あぁそうか。
最近、晩飯、外で食ってないからか。
晩飯。
そういえばさっき綾ちゃん、
『今日の晩御飯はね…』って、
そこまで言って、言葉、切れたな。
何、作るつもりだったんだろ。
あの口ぶり、俺の好きなものだった?
俺が帰らなかったら、綾ちゃん、
一人で晩飯、食うのかな?
横にいる彼女より、
綾ちゃんのことが気になって。
………………
『な、プリクラ撮ろう。』
『え?』
カラオケに行く途中、
ちょうど通りかかったゲーセンに、
たくさん並んでるプリクラの機械。
『うれしー!センパイ、あんまり
プリクラとか興味ないかと思って、
言えなかったんだもん。どれにする?』
『俺、わかんねーから、まかす。』
『ほんと?じゃあねぇ…』
行ったり来たりしながら
彼女が選んだヤツの中に入る。
…彼女に言われる通りにポーズをとり、
彼女に好きなようにデコらせて。
画面の中に、
異様に大きな目で頬がピンクの、
自分とは思えない顔が写った時は、
さすがに笑ってしまった。
『誰だよ、これ!』
『センパイ、かわいいっ!
ね、デコも、これでいい?』
スタンプとか、
手書きの"なかよし❤️"の文字で飾られた
とてつもなく俺らしくない写真。
『いいよ。』
『じゃ、これでプリント、GO!
わぁ、完成が楽しみぃ…』
勢いよくカーテンをめくって
出ていこうとする彼女を、
後ろから抱き締めた。
『センパイ?!』
そのままこっちを向かせて、
カーテンの中で、キス。
『…センパイ…ここで?』
彼女とはキスは初めてではないけど、
こんな…
すぐそこに人がいるようなところで
しかも、少し濃厚なキスを、たっぷり。
しばらくすると、
背伸びがキツくなったのか、
カタン、と、彼女の体が低くなって、
唇が、離れた。
『…センパイ、』
怒ったかな、と表情を見ると、
すごく、嬉しそうな顔。
『…嬉しっ❤️』