第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
片手に買い物袋をぶらさげて、
真っ直ぐに歩いていく後ろ姿が
一歩ぶんづつ遠くなっていく。
思わず、声をかけた。
『綾ちゃん!』
立ち止まって振り返った綾ちゃん。
『…』
特に、用なんかなかったから、
俺は言葉が続かなくて、
だけど、何か言わなくちゃ不自然だし、
横にいる彼女が俺を見上げてる視線も
痛いほど感じてるし、
どうしたら…
そんな一瞬の気配を察したように
綾ちゃんが言う。
『はーい、わかってるって。
遅くなるからご飯、いらない、でしょ?
二人で、楽しんでいらっしゃい!
うふふ、彼女さん、一静に、
おいしいものご馳走してもらいなさいね!』
『おばさん、ありがとうございます♪』
勝手に彼女が返事して、
俺はやっぱり何も言えなくて、
じゃあね、と手を振った綾ちゃんが
『あ、』
俺を見て、言葉を繋ぐ。
『そうだ、一静、ひとつだけ。
静が、進路のこと、気にしてたよ。
時間作って、話しあってみたら?』
『…うん。』
俺の返事を聞いた綾ちゃん。
今度振り返ったら、もう、行ってしまう。
"おばさん"じゃなくて
"綾ちゃん、って言葉を
ちゃんと届けないと。
『…か、母さんに話す前に
綾ちゃんの意見、聞きたい。
俺、自分の立場、把握してないから
どこまで許されるのか、わかんなくて。』
『そんなこと、静に直接、聞けば?』
『母さんは"大丈夫"しか言わねーもん。
綾ちゃん、先に相談にのってよ。
それで自分の意見、固めたら、
母さんにも、ちゃんと話すから。』
『まぁ、それもそうかもね…
いいよ、いつでも声かけて。じゃ。』
綾ちゃんは手を振って振り返り、
人混みのなかに消えていった。
一人で、シャンと真っ直ぐな背中。
強いのか、強がってるのかわからなくて
目が離せなくて。
『…ステキな人だね。』
『ん?』
『おばさん。
キレイだし、説教くさくないし。
なんか"大人の女性"って感じ。
うちのおばちゃん達とは全然違う。
センパイのお母さんも、あんな人?』
『…どうだろな?』
似てるかどうか、
正直、よくわからない。
『とにかく、OKでたしっ!
もうちょっと一緒にいられるのがうれしぃっ。
どこ行こう?カラオケとか?!』