第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
すぐ向こうに人の気配のあるところで、
不意打ちの、ちょっとだけエロいキス。
ついでに、日頃ならやらないプリクラ。
よかった。嬉しそうだ。
…ズルいと自覚しつつ、
これで満足してくれるなら。
『そろそろ、出来んじゃね?』
ビニールのカーテンをめくって外に出ると、
ちょうど、
カタン。
出来上がったプリクラが落ちてきて、
『キャハハ…これ、誰~っ!
超 ラブラブなんですけど~!見て見て!』
…と笑ってる彼女の頭に
ポンポン、と軽く触れて。
『あのさ、』
『ん?』
『ごめん、俺、帰るわ。』
『え?!今からカラオケ…』
『ほら、さっき言ってただろ?
進路のこと、そろそろ親と話さねぇと。
うち、親が不規則な仕事だからさ、
こういうの、早めにやっときたくて。』
『でも、今日じゃなくてもよくない?
さっきおばさんも、
ゆっくりデートしておいで、って。
相談だって、いつでものるよ、って。
今日は遅くなっていいって、
おばさん公認のデートなのに…』
だから。
"おばさん"って言うなよ。
…という言葉は飲み込んで。
『こういうの、タイミング大事だし。
ほんと、ゴメン。カラオケは次、な。
最後の試合終わったら、どこでも行く。』
『…なんかあたし、大事にされてなくない?』
『んなこと言うなよ。プリクラ、俺も貼るし。』
『見えるとこ、貼ってくれる?』
『貼る貼る。どこがいい?』
『じゃあ、すぐ見えるとこにする。』
俺のスマホの裏側にペタッと貼られた。
…苦笑。これ、及川に見られたら、
間違いなく、相当、いじられるなぁ…
でも、これで気がすむなら。
『…センパイ、あたしのこと、好き?』
『当たり前じゃん。』
これ以上、
言葉で説得するのは、時間の無駄だ。
人目があるのは承知の上で、
その場でおでこにキス。
さらに、ギュッと抱き締める。
『これなら、伝わるか?』
『…うん。わかった。許す。』
『よかった。必ず、埋め合わせするから。
家まで送れなくてわりぃけど、
もう暗いから、ブラブラしてねぇで
真っ直ぐ帰れよ!気を付けて。
じゃ、明日、学校でな!』
出口に向かって歩き、
ゲーセンを出て、
彼女から見えないところまで来たら、
…コツ、コツコツ、はっ、はぁっ…
俺の足は、
勝手に走り出していた。