第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
穏やかな顔と、
穏やかな声で。
『"その時に1番"大事な人を
1番、大事にすればいい。
人はね、心も環境も変わっていくから、
一生、同じ人がずーっと1番ってわけには
なかなかいかないのよ、残念ながら。
いっちゃん、今、他に好きな人、いる?』
他、って…
『特にいないけど。』
『でしょ。じゃ、』
綾ちゃんは、大人の顔で言う。
『いっちゃんの"今の1番"は
間違いなくその彼女なわけだから。
迷うことないわよ。
彼女だって、話聞いてる限り、
いっちゃんのこと大好きみたいだし。』
…今まであれこれ悩んでたのは
何だったんだ?と思うくらい
スッキリとした気持ちになる。
『…綾ちゃん、大人。』
『そー!残念ながら、もう大人なの!
もっといっちゃん達みたいに
若さに任せて無茶苦茶したいのにーっ!
気がついたら大人になってたのっ!』
本当に悔しそうな顔をするから、
つい、笑ってしまった。
この世代の女性のこと、今まで、
"母親"だったり
"誰かの母ちゃん"として見てたけど、
持ってる顔は
"母"だけではないんだと知る。
ちょっと前までは"女子"で、
恋したり失恋したりしながら
"結婚したい"と思ったときに
"1番好き"だった人と結婚して、
妻になり、母になり、嫁になり…
(うちの母親はちょっと違うけど。)
そして、強く逞しくなったんだろーな。
でも。
今、俺の目の前にいる綾ちゃんは
妻でも嫁でもないわけで。
じゃ、なんだ?
…あぁ、"女"か。
俺、今、彼女がいてよかった。
じゃなかったら、綾ちゃんのこと、
"女"として意識してたかもしんねー。
『…に、言ってね。』
『ん?』
『もしいっちゃんが彼女連れ込む時は、
先に言ってね。私、出掛けとくから。』
『ええっ?!
"今日、連れ込んで、ヤるよ。"…って
わざわざ先に言えってこと?
絶対ムリ!それ、恥ずすぎっ!』
『それもそうか(笑)
じゃ、雰囲気察したら、そーっと消える。
終わったら電話して。』
『気ぃ遣いすぎだって!』
『…待っててね、あたし、早く、
家と仕事探して、ここ、出て行かなきゃ。』
『だから、気ぃ遣いすぎ!
いっそ、ここに住んだら?』
『それこそ、お気遣い、ありがと。』
…いや、マジで。
俺は全然、構わねぇよ?