第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
…その日、帰ると、
母はいつも通り仕事に行っていたけど
綾ちゃんは、いた。
『おー、今日は和食かぁ、うまそ。』
『好き嫌い、わからなかったから、
適当に作ったけど…
チーズINハンバーグ以外の好物も
教えといてね。』
二人で、晩飯を食う。
…というか、
綾ちゃんの箸を持つ手が止まってる。
『…綾ちゃん、食わねぇの?』
『いい食べっぷり…見てて気持ちいい!』
『だって、うまいもん。』
『あぁ嬉し!作りがい、あるなぁ。
あ、そうそう、お弁当のご飯、足りた?
部活男子の食欲、見当つかなくて。』
『母さんが作るときもいつもあのくらい。
ちょうどいい…あ、弁当と言えばさ、』
彼女に"弁当がいつもと違う"と
言われたことを話してみた。
…"親戚のおばさん"が作った、と
言ったことと、
彼女が"弁当作ろうか"と言ったのを
断ったことは、黙っておいた。
『恋する女子、だねぇ。そんで、
いっちゃんのこと、大好きなんだね。』
『まだ、つきあって3ヶ月だから。
なんか、盛り上がってくる頃、的な?』
『うふふ、他人事みたいに言っちゃって。
いいねぇ、学校行くの、楽しそ。』
『…どっちかっつったら、
今は部活の方が大事な気もするけど。』
『それとこれとは別でしょ。
高校時代の恋愛は、女子にとって特別よ。』
…それって、
『あのさ、綾ちゃん、高校の頃、彼氏いた?』
『いたよー。』
『その人が、ハジメテの人?』
ククク…
綾ちゃん、笑ってる。
『あ、ごめん。飯の途中でする話じゃないよな。
てか、そもそも失礼な質問か?ごめん…』
『いい、いい、全然、いいのよ。
いや、いっちゃんとこんな話する日が
来たんだなぁ、と思って。うん。』
…誰かと向かい合って喋るって、
飯、食うときくらいしか、ない。
そんで俺は、外のいろんな人と、
毎日、飯、食ってきたから、
飯を食うときが、1番、喋りやすい。
…だから、つい、
久々に再会したばかりの綾ちゃんにも
こんな不躾な質問をしてしまった。
『そうだよ、
高校の時の彼が、私のハジメテの人。』
『…やっぱ、特別?』
『そりゃ、忘れはしないわね。
まぁ、今思えば、セックスとしては
大したことなかった気がするけど(笑)』