第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
翌日。
『あれ?先輩、そのお弁当…』
『ん?弁当が、どーした?』
昼休みはいつも、彼女と二人で飯を食う。
別に、俺だけじゃない。
教室だったり、渡り廊下だったり、
中庭だったり、学食だったり、
体育館入り口の階段だったり、
とにかく学校のあちこちに、
カップルとか女子のグループとか
あれこれいるのは普通の風景で、
俺と彼女も、
いつも通り並んで弁当を広げていた。
『…誰が作ったお弁当?』
『え?』
『お母さんじゃないでしょ?』
…今日の弁当は、綾ちゃん作。
俺の目には、そんな、違わねぇけど。
『ほら、ソーセージの切り目とか、
ゆで卵の上の黒ごまとか、
チクワとチーズときゅうりの巻き方とか、
今まで、一回も見たことない細工。』
…ひょぇ~。
女子、そんなとこまで見てんのか。
『…これ作ったの、女の人だよね?』
説明するのがちょっと面倒くさくて。
『あぁ、母親がしばらく忙しくてさ、
親戚の…その、おばさん?が…
泊まりで手伝いに来てくれてんだ。』
ここに綾ちゃんはいないのに、
"おばさん"という言葉を使うことに
罪悪感を感じてしまう。
…わりぃ、綾ちゃん…
『ねぇ、お母さん忙しいなら、
あたしぃ、おベント、作ろっか?!』
…一瞬にして、
いろんなことが頭をよぎる。
『…いや、ほんの何日かだからさ。
お前だって、朝練とかあるだろ?
ちょっとでも眠れよ。』
『えー?なんか、役に立ちたい~。』
『(笑)彼女はそばにいてくれれば充分。
…あ、大会終わったら、
二人でどっか、遊び行くか?』
『うんっ!わぁ、楽しみ!
早く、大会、終わればいいのにっ!』
『おーい、それ、
早く負けて引退しろって言ってるのと
同じだけど?!』
『うーん、それも困るけどぉ、
もっと一緒にいたいしぃ…』
高校生らしい恋愛は今しか経験出来ないから、
これはこれでいいよな?
心の中でつい、綾ちゃんに話しかけてしまう。
『…に行こうよ!』
『ぁ、ぇ、ごめん、何?』
『もうっ、私の話、ちゃんと聞いてる?』
『ごめん、なんか、
及川が覗いてる気がして、気が散った。
(さすが及川、いなくても使える男!)』
『今度、映画見に行こ!』
『ぁ、いいよ。』
…俺、いつか、彼女のこと、
大好きに、なれっかな?