第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
俺をじーっと見てる綾ちゃん。
『な、なんだよ?』
『いいのよ、まだ高校生だもの。
つきあうきっかけなんて、別に、
"大好き"じゃなくても。』
…え?…
『いっちゃん、静に似て、真面目ね。
告白されて嬉しかったし、
特に断る理由がなかったから…
って、とりあえずつきあってる自分が、
実は、ちょっと許せないんでしょ。』
…そうだ。
花巻みたいに、
彼女のことを大事にしすぎて
処女がもらえない、みたいな感覚、
俺、今の彼女には持ってない。
傷つけたくない、とは思ってるけど、
それは裏を返せば、
自分自身が悪者になりたくないだけだ。
『…なんで、わかった?』
『なんで?なんでだろうねぇ。
…彼女の話してても、いっちゃん、
あんまりピンクな顔、しないから?』
『ピンク?エロい顔ってこと?そりゃ、』
『違う違う、まだHしてないから、
とかそういうことじゃなくて、』
シてないことも、お見通し?!
『もっと、幸せだったり悩んだり、
そういう、よくある"恋してる顔"
みたいな感じじゃないもの。』
『…悪いけど、俺、もともとこういう顔だし。』
言い訳しながら、花巻のことを思い出す。
アイツ、悩んでても恋してる顔で、
俺は確かにそれがちょっと、羨ましかったんだ。
『…今から、超 好きになるかもしんねーし。』
『そうよそうよ、いいの、それで。
そうやって、一人一人、
一回一回、繰り返しながら、皆、
"最愛"の人を探し続けるんだから。』
…綾ちゃんは、缶ビールを
カシャッと音をたてて潰し、立ち上がった。
『…ま、あたしも、
威張ったこと言える立場じゃないけどね。
この年で、まだ失敗繰り返してるし。
…その点、静は偉いわ、うん。』
最後は、独り言みたいに小さな声で。
『さぁてと、もうすぐ12時か、寝よ!
明日はお弁当も朝御飯も、私が作る。
いっちゃん、ちゃんと目覚ましかけて、
お腹、冷やさないように…歯、磨いて。』
『だからっ、俺、もう、高3!
ガキ扱い、やめてくんねー?!』
こうして俺にはまた一人、
母親繋がりの
"家族のような存在"が増えた。
…これまでとは、
何かが少し違う感覚の、家族。
場数を踏んで逞しく、
しっかりしてるのに
どこか少しもろくて、
傷だらけなのにキレイな、
母さんに似た、"女"。