第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
間違い、とは?
どーいうことだ?
もしかして、そーいうことか?
『し…心配すんなら、泊めんなよ!』
アハハ、ま、もう、子供じゃないしね、
お風呂は一人で入んなさいよ~
なんて、
いらないことを言いながら母はさっさと出て行き、
綾ちゃんは綾ちゃんで玄関の鍵を閉めながら、
『久しぶりにあんなに笑った~!
さぁて、あたしもお風呂、入ってこよ。』
…と、
着替えを抱えて浴室に消えていった。
うぅむ、今から数時間、完全に、二人。
及川だったら、間違いなく、
積極的に"間違い"をおこしにいくな。
俺は、多分、大丈夫だと思うけど。
彼女、いるし。
母の友達だし。
昔からの知り合いだし。
さっきハグされた時ちょっと勃ったけど
あれは、急だったからだよな、うん…
先に、寝てしまうべきか?
てか、あんま、意識する方が
逆にダサくねぇか?
普通に、おやすみくらい言ってから…
えぇと、突っ立ってるのもおかしいよな、
とりあえず、なんか、しよ。
テーブルの上の散らかったグラスや皿を
流しで洗っていたら、浴室のドアが開く。
『あ、いっちゃん、洗い物してる!
あたし、お世話になる分、家事やるから!』
…風呂あがり、
シャンプーの香りが近づいてくる。
やべ、俺、誘われたら、断れっかな…
『…ね、いっちゃん、つきあって。』
つ、つきあって?!
近づいてきた綾ちゃんの手が、
俺の背中…を通りすぎ、冷蔵庫を開ける。
『ビール、まだあったよね?
いっちゃんは…コーラでいいの?』
あ、つきあって、って、
酒の相手しろ、ってことか。
意識しすぎだ、俺、落ち着け…
『コーラでいいよ、てか、コーラしかないだろ…』
『ウーロン茶もあるけど?』
『…んじゃ、ウーロン茶。』
グラスに氷を入れながら、
綾ちゃんは言った。
『ほんとに、ビールとか飲まないの?』
『飲まないって。
おっさん達に飲まされそうにはなるけど。
母さん、そういうの、案外厳しいから。』
『そうなんだ。…静、真面目だもんね。』
多分、綾ちゃんは、
俺の知らない母のことを
誰よりたくさん知ってる。
そんな人と二人きりということは、
母に直接聞けないけど気になる過去を
こっそり教えてもらえる、
チャンスじゃないだろうか?