第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『あっちぃっ…』
大丈夫!?
ほら、お水飲んで!あれ、
これコーラだ、コーラでいい?
温めすぎたハンバーグの中から
ドロリと溶けだしたチーズの熱さに
ハフハフしたら、二人とも慌ててる。
二人揃って、
俺のこと、いくつだと思ってんだ…
『…大丈夫だって!
もう、マジでガキじゃねぇから。』
過保護な愛情がうっとおしくて、
こっちから話題を変える。
『で?綾ちゃん、
なんで突然、久しぶりに帰って来た?
なんか、身内の冠婚葬祭?』
『ふふ~ん、ソロデビュー!』
『…ぁ?歌手?』
『違うけどっ。』
『じゃ、ソロデビューって?』
『人生の、ソロデビューで~す。』
『…離婚?』
『ピンポ~ン、大正解!…って、
もぅっ、いっちゃん、ハッキリ言い過ぎ!
ちょっとは、気ぃ使って欲しいっ!』
『離婚にどーやって気を使えっての?
別に、普通だろ、うちも一緒だし。』
『やだぁ、一静。一緒じゃないわ。
お母さんは離婚してませ~ん。』
『離婚する以前に、
結婚してもらえなかったんだろ!』
『きゃー、息子がイジメルっ!
綾、ついに息子がグレた!』
『あぁもう、うぜぇ!
仕事前に飲み過ぎじゃねぇの?大丈夫?』
『泣けるわぁ。いっちゃんったら、
しっかりした男に育って…
静は、旦那なんかいなくても充分ね!
うらやまし~いっ。』
あぁ、
これだから酔っぱらいは面倒くさい、
…と思うのだけど、その一方で、
普段は落ち着いてしっかりしている母の
いつになくはしゃぐ姿が新鮮で、
(ついでに、仕事に遅れないか心配で。)
結局、俺は女子会につきあい続け、
そして10時。
『母さん、そろそろ支度した方が…』
『ぁ、もうこんな時間!?
すぐ着替えてくるから、
一静、タクシー来たら待たせておいて。』
さっきまでの"女子"の顔は消え、
部屋から出てきた和服姿の母は、
"バーラウンジ 一人静"のママの顔。
『一静、留守番よろしく。
綾、自分ちだと思って
勝手にゆっくりしてってね。』
『ありがとう。』
『え?綾ちゃん、泊まんの?』
玄関でぞうりをはきながら、
母は当たり前のように言った。
『仕事と家が決まるまで、綾、
うちに泊まってもらうから。
一静、間違い、起こさないでね。』
は?
間違い、とは?