第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
さっとシャワーを浴びて
部屋着代わりのジャージを着て、
リビングへ行くと、
『待ってた~!わぁ、いっちゃんだ!』
綾ちゃんがハグしてきて驚く。
『ちょ、止め…ガキじゃないから!』
短い髪のすぐ下、
パールのピアスの裏側から
フッ、といい匂いがして、
妙にドキンとする。
…ゆるいジャージを持ち上げるように
下半身が条件反射で反応しかけたから
あわててわざと冷たく突き放した。
『あ、ごめんね、つい、子供のつもりで…』
綾ちゃん。
母の親友で、
俺が小さかった頃、
1番よく面倒を見てくれた人だ。
確か、
俺が小学校にあがる前には
旦那の転勤だか何かの理由で
東京に行って以来、
ずっと会ってないから…
12年くらいぶりだと思う。
『もう、高校3年なんだって?
なんか"いっちゃん"なんて呼ぶの、
もしかして失礼かな?
"一静君"の方がいい?』
『急に"君"とか言われる方が恥ずい。
いーよ、いっちゃん、で。
…綾ちゃんこそ、もう、
"ちゃん"って呼ばれる年じゃないか?』
母と同じ年のはずだから…40?
『…綾おばちゃん、とか言ったら
ただじゃおかないけど。』
『…綾さん?』
『よそよそしぃっ!』
にこにこ笑って見てきた母が
話に割り込んでくる。
『いいじゃない、
いっちゃん綾ちゃんで。
それより、一静、お腹空いたでしょ?
ご飯、食べなさい、ほらほら!』
テーブルの上には、出前の寿司や天ぷら、
近所のデリのサラダやスモークサーモン…
『なに、これ。豪華!』
『一静用に、チーズINハンバーグも
買ってあるから。ご飯、炊いてあるし。
その前に、はい、グラスグラス、』
母がグラスにコーラを注いで、
俺の前に置く。
二人の前には、ビールの空き缶と
二本目のワインもあいていて。
『乾杯!』
カチン、カチン。
3人で、グラスをあわせる。
家で晩飯食べんの、久しぶり。
母親と晩飯食べんのも、久しぶり。
…さらに、
母親と、その友達と、
こうやって家飲み(俺、コーラだけど)
するなんて、初めてだ。
なんだかちょっと、
大人になった気がした。
居心地、いいような、悪いような。
自分の家じゃ、ないような。