第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
結局、頭を抱えたまま
花巻は先に電車を降りていった。
…いいヤツだな、と思う。
自分のことも彼女のことも、
すごく大事にしてるところが。
一人、電車に揺られながら、
俺も、付き合って3ヶ月になる
彼女のことを思い浮かべていた。
…さっきの花巻の悩んだ顔を見て
なんとなく言いにくかったから
黙っていたのだけど、
実は俺も、処女の取り扱いを気にしてる。
俺、
年下と付き合うのは初めてで、
処女と付き合うのも初めてだ。
ちなみに、及川みたいに
"ハジメテの男になりたいっ"
みたいな欲望は、俺、どうでもいい…
というか、むしろ、ない。
…最初がプロだった弊害?!だろうか。
セックスに"想い出としての価値観"は
これっぽっちも抱いてないから、
女子の"一生に一度"的な感覚に
どう対処したらいいのかが
イマイチよくわからなくて、
例えば、痛い、って言われたら、
そこで一旦、引くべきなのか?とか
やっぱり今日はダメ、とか言われたら、
それは本心なのか、
それともそれは、女の子としての
常套句としての恥じらいで
そこは男が強行突破すべきか否か、とか
そうだ、やっぱり花巻と同じく、
家がいいのか、
その場合、うちか彼女の家か、とか
そもそも、高校生が付き合って3ヶ月で
セックスに至るのは、
ペースとしては早いのか遅いのか、とか
…そういうことを考えるのが
実はちょっと面倒になったりしてる。
及川はともかく、
岩泉とか、どーしてんだろーなぁ、
案外、仲間のそういうことって
知らないもんだな、
…なんて思いながら、
電車を下りて、駅を出た。
俺の家は、
街のど真ん中のマンションだ。
…母が店まで毎日無理なく
タクシー通勤出来るように、という、
多分、これも"父親"の配慮。
大人の男女の愛情の中で、
俺の暮らしも守られてる。
…息子がもう童貞じゃないことや
処女の扱いに悩んでることなんて、
彼らにしたら微笑ましいくらい
ささやかなことなんだろうな。
ちょうど、
夜の街が賑やかになり始める時間。
すれ違うカップルを見るたび、
"もう、セックスしたんだろうか?"
と気になってしまう。
俺も、
花巻と変わんねぇ、ガキじゃん。
『…晩飯、どこにしよ。』
いつもと同じ事を考えながら、
夜の街に向かう人波に逆らって
家へと向かった。