第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
俺達が乗った車両は人も少なくて、
シートの真ん中に二人並んで座る。
…電車が動き始め、カタンカタンと
リズミカルな音をたて始めた頃、
花巻が、小さな声で話しかけてきた。
『…マツは、どこでだった?』
『あ?』
『マツの、ハジメテ。
…いや、ほら、オレの場合さ、
彼女にとってハジメテなんだけど、
その、俺にとっても初だから、
なんかほら、あれだ、いろいろ、
ええと…うまく出来っかな、とか…
参考になる意見があれば…』
チラチラとこっちを見ながら、
でもマトモには見れない感じで
ぼそぼそ喋る花巻。
わかる。確かに、及川の前では
そんな話、出来ないだろうなぁ。
俺の場合、
そういう相談事の相手は
幸い?!たくさん、いる。
俺が晩飯をあちこちに食べに行くと
それぞれの店で出会う馴染みの客や
店の女将の旦那、
暇になると話し相手をしてくれる、
板さんや、大将。
…そう、俺の"外の家族"のおっちゃん達。
おっちゃん達はそういう話が大好きで、
俺が未成年であろうと、遠慮なく
エロい話題をもちかけてくるし、
こっちから聞かなくても
大人の世界を教えてくれる。
…実は俺が童貞捨てたのも、
そのおっちゃん達からの
サプライズプレゼント?!
"社会勉強"と称して
初フーゾクに連れていかれた時だった。
『男は女を満足させてやれるように
ちゃーんと勉強してから彼女とヤレ!』
…という人生の先輩の言葉に従い、
真面目に性交の実践練習を積んだのは
高校1年の冬のこと。
だけどこの話は、
多分、花巻には刺激が強すぎるから、
俺なりの優しさで、ウソをつく。
『…俺の初は、去年の春。
前の彼女の家だったよ。』
『前の彼女、年上だったよな?』
『うん。独り暮らしの大学生だった。』
『独り暮らし…いいなぁ、じゃ、
親の目とか気にせずにヤレたんだ。』
『だな。向こうは処女じゃなかったし。』
『羨ましいことばっかりだ…』
『なんでだよ、そんなことねーだろ、
好きな相手同士でお互い初めてなんて、
それこそスゲー、幸せじゃん。』
『ヤりたいのに、気が重い…』
『花ってホント、見た目よりずっと
真面目でいいやつだな。』
『なんだよ、それ…』
『いや、マジ。俺が女だったら
及川なんかより絶対、花巻とつきあう。』
『どーしようもない慰め、サンキュ…』