第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『むむっ!ちょーっとっ!!
ね、ね、あの美人、誰のお母ちゃん?
てか、あれがお母ちゃんってズルくない?』
…これは
俺が初めてスタメン入りした試合の時、
保護者席を見て、及川が発した言葉だ。
『俺の母ちゃんだけど。』
『ま、まっつん!
そんな秘密兵器を隠してたとは…』
秘密じゃねぇし、
兵器じゃねえし、
隠してねぇけど、
今まで、試合には来させなかった。
来てほしくねぇからじゃなくて、
うち、夜の仕事してっから、
俺が出てない試合を見に来るより
昼間は休んでてほしくて。
母ちゃんは、
『一静が試合に出なくても、
保護者の役割分担とかあるんでしょ?
遠慮しないで、教えてね。』
…と言うけど、
なんといっても強豪 青葉城西。
とにかく、試合の数が多い。
いちいち真面目に来られちゃ
それこそ体とか店とかあれこれ、
俺の方が気を使う。
"スタメン入りしたら必ず呼ぶから。"
…という約束をして、
その初スタメンの日、母親は、
とてつもなく喜んで会場に駆けつけた。
駆けつけたのは、母だけではなく。
『むむむむっ!ちょっと!
あっちのあの美魔女軍団っ!
まさか、俺、あの世代にもモテてんの?!
体育館にふさわしくない、大人の花園…
あ、こっち見て、手ぇ振ってるしっ!』
及川が、キラースマイルで
手を振り返してる美魔女軍団は、
本当は、及川でなく、
俺に向かって手を振ってるのだけど(笑)
及川のヤル気にかかわるといけないから
そこは黙っておくことにした。
…及川の言う"美魔女軍団"は
俺のもうひとつの家族のような人達。
うちの母親が彼女たちに
俺の初スタメン入りを報告したら、
『青城ユニフォームの一静の勇姿、
あたしたちも見たいから!』
…と、応援に来た。
"地味めで"と頼んでおいたから
いつもより相当カジュアルだけど、
やっぱり、そこらの母ちゃんと比べると
華やかなのは隠しきれず…
及川の言う"大人の花園"という表現は
確かに間違ってない気がする。
『オイカワトール、
幅広い年齢層のレディ達の応援のお陰で
今日も絶好調!』
チャラチャラしすぎて
岩泉に殴られながらも、
すっかりいい気分で好調の及川。
それでチームが勝つなら文句なし。
…やっぱり男を動かすのは女の魔力だ…
とつくづく思う、俺。
今んとこ、至って健全な男子高校生。