第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
『あ、西谷じゃん!午後、ヒマ?』
向こうから、同じクラスの男子が
声をかけてきた。
『ヒマ、ヒマ!遊ぼーぜ!
…カオリ、森島、じゃ、またな!』
私達を追い越して走っていこうとした
西谷君のマフラーを、
カオリがギュッと、捕まえる。
『ゲホッ…ぐ、苦しいじゃねーか、
カオリ、何すんだよっ!』
『ニシノヤ、そんな挨拶、ないじゃん!
また、って言ったって、もう明日からは
同じ学校じゃないんだよ?』
『なんだよ、そんな、
一生、会えないみたいに言うなよ~。
遠くに引っ越すわけでもねぇしさ。』
『そういう問題じゃなくて、ケジメ!
烏野に合格出来たのだって
綾のおかげなんだから。もちょっとなんか…』
『カオリ、いいって!
合格したのは西谷君の頑張りだし…』
『それは、』
西谷君が、キュッと私の方を向く。
『だな、確かに森島のお陰だ。
…なんか、俺で役に立つことがあったら
いつでも声、かけろよ!
学校違ったって、今からもずっと
友達には変わんねぇんだから。』
『…ありがと…』
『ま、森島はカオリと違って、
いつだってしっかりしてるからな。
…イテッ(>_<)、カオリ、そんなボコボコ殴るな、
せっかく合格したのに、またアホになるだろ…
なぁ森島、
俺に数学教えるより難しいことなんて
多分、ねぇよ。
うん、この先、なんか辛いことあったら
アホな俺を合格させたこと思い出せ!
きっと大概のこと、乗り越えられる!
…あ、』
そう言って、西谷君は、
ポケットに突っ込んでいた手を出した。
『これ、やる!合格の、お礼。
俺のラッキー、わけてやるから!』
私の手のひらに、何か、握らせて。
『じゃ、お前らも元気でな!』
あっという間に
声をかけてきた友達の方へ走り出す。
相変わらず飛び跳ねるような背中。
『…嵐のようにわーっと騒いで
わーっと去っていきやがったね…
で、それ、何?』
去っていった背中を見ていた私も、
カオリの言葉でハッと我に返って
手のひらを、開いた。
『…これ、』
ククク…アハハ…
カオリがあきれたように笑いだす。
『こどもかっ?!』
手のひらに、
小さな、薄い茶色の木の板。
…ガリガリ君の、当たり棒。