第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
合格発表の日。
受験した高校に、朝1番で見に行った。
多分、大丈夫、
自己採点では
合格ラインより出来てたと思うもん…
そう思うのに、
手袋ごしに握る受験番号の控えを
何度も落っことしそうになる位、
手が震えてしまってる。
『310、310、310…』
祈るように自分の番号を唱えながら
掲示板を見つめる。
『あ、あった!』
"310"の番号が、ある。
ちょうど近くで同じように弾けていた
小学校の頃の顔馴染みの女子と
『春からまたよろしくね!』と
お互いに喜びあってから、人垣から離れ、
スマホを取り出した。
『カオリ!』
『綾!今、電話しようと思ってた!
私、合格だったよ!
綾もその声なら、合格だね!』
『うん!』
よかった。
自分だけ合格しても、嬉しくない。
言葉の端々に!マークがつくくらい、
嬉しくて。
一緒にこの日を喜びあえて、よかった。
…で、もう一人の、一緒に喜びたい人は…
『ね、西谷君は?烏野、どうだったんだろ?』
『それがさぁ、電話、繋がらなくて。
多分、合格したぞーって電話かけまくってるから
通じないんじゃない?』
『だよね、心配ないよね?』
『…とりあえず、学校、行く?』
『うん。』
いてもたってもいられなくて、
私達はそれからすぐに中学校に集合した。
カオリとおちあって、
担任の先生に合格の報告をして、
それでもまだ西谷君は学校に来なくて、
カオリと二人で靴箱の前で待つ。
『…大丈夫だよね?』
『大丈夫だと思うよ。』
何回かそのやりとりを繰り返しながら
祈る気持ちで正門を見つめる。
あそこから、
飛び跳ねるように走ってくる西谷君を、
とびきりの笑顔を見られますように…
何度も何度も
その場面を頭の中に描いて、
いいことだけを想像しながら。
『…あ!』
『来たっ!もぅっ、ニシノヤ、
遅~いっ、遅すぎる~っっ!!』
来た。
思い描いていた通り、
正門を飛び跳ねながら通り抜け、
すれ違う友達と声をかけあいながら、
力強くて迷いのない笑顔で、
3月の、まだ弱い太陽の光より
もっと眩しい、西谷君の姿。
3年間、何度も見てきた、
何度見ても、やっぱり元気をもらえる、
そして今日が見納めかもしれない、
大好きな人の、大好きな姿。