第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
別に
木兎と一緒じゃない夜なんて
珍しくもなんともないんだけど
その日は俺まで落ち着かなくて
一人で飲みにいった。
なじみのバーのマスターが
驚いた顔で俺を迎えてくれる。
『お1人なんて珍しいですね。
これから待ち合わせですか?』
『いや、今日はホントに1人。』
『なら、奥、どうぞ。』
『マスター、ギムレット。』
『…ジンではなく?』
『うん。いつもと違うの飲みたい気分。』
マスターは、
『かしこまりました。』
とだけ言って、グラスを取り出す。
カウンターの一番奥の席に、1人。
…そうだな、ここに1人で来たの、
初めてかもしんねーな。
女の子と2人で来たこともあるし、
木兎と綾ちゃん連れて
3人で来たこともある。
3人。
男2人と、女1人。
そこに色恋が関係してるんだから
いつまでも続くはず、ない。
あの二人、
もしうまくいったら、
もう、3人で会う必要、ないな。
あ、でも
もしうまくいかなかったら、
それこそ、もう会うこともないか。
…結局、どっちにしても
もう俺と彼女が会うことはない。
結構、楽しかったのに。
俺、なんだったんだろうな。
結局、どっちにしても関係なくなるって
いてもいなくても一緒、みたいじゃん。
及川 徹ともあろう者が。
アテウマみたいな存在、やるなんてさ。
3人での想い出と
もうおしまいの寂しさと
すこしの腹立たしさとが入り交じって
…この気持ち、なんて表すんだ?
イライラ?
イライラする。
カタン。
俺の気持ちを静めるように、
穏やかな仕草で前に置かれるグラス。
『ギムレットです。』
『ありがとう。』
他に客がいないからか、
珍しく、マスターが個人的に話しかけてきた。
『カクテル言葉ってのがありまして、』
『?』
『いつも頼まれるジントニックは
"強い意思"って意味なんです。
及川様らしいな、と思ってました。』
『…ここに来るときは
俺、いつもフニャフニャでしょ?』
『フニャフニャでいる、という
意思を感じますよ。
本気にならない、という強い意思。』
『…ギムレットは?』
『ギムレットは"遠い人を想う"です。』
『…それは少しも俺には当たらないな。』
『それは失礼致しました。どうぞ、ごゆっくり。』
マスターは、
静かにグラスを磨き始める。