第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
そして、受験当日。
直接それぞれの試験会場に向かったから
カオリとも西谷君とも会ってない。
きっと3人の中で
一番緊張しやすいのは私。
知らない場所で
知らない人に囲まれて、
試験前独特の雰囲気の中、
私は、ドキドキしていた。
…どうしよう。
3人の中で私だけ落ちたらどうしよう。
泣きたくなるような気持ちのまま、
試験官の先生が教室に入ってきて、
試験問題が配られ始める。
最初の教科は、数学。
ドキドキがおさまらないまま、
いよいよ試験が始まった。
ページをめくる前に大きく深呼吸。
昨日の西谷君の言葉を思い出す。
『3人、違う場所にいても
一緒に戦ってるわけだから。』
そうだ。みんな、同じ。
ドキドキしてるのは、私だけじゃない。
周囲からは、もう、カリカリ…という
鉛筆を走らせる音がし始めている。
私も、スタートしなくちゃ。
ふうっ。
大きく息を吐き、ページをめくった。
丁寧に、問題を読み、解いていく。
…あ、これ。
3人で替え歌にして覚えた公式で解くヤツ。
あ、これ、
最初の頃、西谷君が苦労してた関数だ。
あ、これは
西谷君よりカオリの方が苦手だった係数。
あの時カオリ、
西谷君より出来ないのを悔しがって、
私と二人でこっそり特訓したな。
…カリカリと解答欄を埋めながら、
涙が出そうだった。
私が西谷君とカオリに
教えてたつもりだったけど、
二人と一緒に勉強したことは
私のためにもなってたんだね。
きっと西谷君もカオリも、
私と同じ事を思い出しながら、
ちゃんと解いてる。
あの二人、本番に強いから、
うん、きっと大丈夫。
中学校生活の集大成で、
それぞれ別の道を歩み始めるための
別れ道でもある高校受験。
西谷君、苦手な数学を
ここまで頑張ってきただけでも
充分、すごいと思うけど、
西谷君ならきっと、必ず、結果を出す。
昨日、言ってたもん。
『一点、一点、拾って拾って拾うから。』
その言葉は、何度も私の中に響いて。
ここにいなくても、
西谷君は、私に勇気をくれる人。
片想いで、充分。
それぞれの志望校に合格したら
もう、会うことはないかもしれないけど、
それでも西谷君は、
私の初恋の人で、大事な人。
…いつの間にかそんなことを考えるほど
その後の試験は、リラックスして臨めた。