第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
いよいよ受験の前日。
『今さらジタバタしてもしょーがねぇ!』
…という西谷君の提案で、
3人でカラオケに行った。
"元気のでる曲限定"という
西谷君の作ったルールにのっとって
歌いまくった二時間。
ソファの上で飛び跳ねたり、
途中でジュースをこぼしたりする
西谷君を見ながら、思い出した。
カオリが失恋した日。
あの時も、3人でカラオケ、行ったね。
あれから、いろんなことがあったね。
もしかしたら、
西谷君とこうやって遊ぶのは
今日が最後になるかもしれないけど、
どれも、忘れられない想い出。
…そんな感傷的な気分なのは、
どうやら私だけらしい。なんで?(笑)
『ちょっと、ニシノヤ!
あんた、そんなにむちゃくちゃ跳ねたら、
脳ミソ、揺れ揺れじゃん!
せっかく勉強したこと、忘れるよ!』
『だーいじょーぶだって!』
『ほんとにさぁ、アンタは
緊張とか失敗って言葉に震えること、
全然、ないわけ?』
『だって、やること、やったから!
俺の後ろには、森島がついてるし。』
『コラ、そこ、ウソでもいいから
あたしの名前もいれとけ!』
『…カオリもついてる。…チョロッと。』
アハハハハ…
おかしくて、3人で大笑いした。
そして、西谷君が言う。
『明日は3人、違う場所にいるけど、
3人とも一緒に戦ってるわけだから。
俺、わかんねぇ問題あっても、
絶対何か書いて、答案用紙埋める。
偶然でも、1個でも当たるように、
一点一点、拾って拾って拾うから。
俺の目標と、
お前らが俺に費やしてくれた時間、
全部、無駄になんかしねぇからさ、
俺は、心配ねぇ。
むしろ、お前らこそ、頑張れよ!』
『…ねぇ、ニシノヤに励まされると、
なんか、ものすごい敗北感なんですけど…』
カオリはそう言って、
微妙に悔しい顔をしてたけど、
私はすごく、嬉しかった。
帰り際。
『よし、気合いいれっぞ!』
…西谷君が右手を突き出した。
カオリが私の右手を西谷君の手の上に置き
カオリの両手が二つの手を上下で挟む。
…西谷君とカオリの手の温かさが伝わってくる。
『合格あるのみっ!』
西谷君の掛け声でふり上げた
私達の重なった手は、夕陽に映えて。
"夕"っていう西谷君の名前に
ぴったりの眩しさと、温かさだった。