第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
…夕方のひとけのない廊下を走り、
教室の前で急ブレーキ。
バタバタした足音が急に止まったからか、
教室のなかのその人影の動きも
急に止まった。
『ちょっとあんた、なにしてんの!』
西陽が逆光になってて、
誰かわからない。
カオリが教室に飛び込んで、
相手の手からハサミを奪った。
…机の上には、私の体育館シューズ。
靴紐、切ろうとしてたみたい。
ハサミなんか持たせてると
却ってカオリの方が
事件起こしそうだから(笑)
私はとにかく、カオリの手から
ハサミをそっと取り上げた。
あとは、カオリに任せるしかない。
…だって、どうしたらいいか、
全然、わからないんだもん。
『あんた、体育館で見たことある。
部活、女バレだよね?』
…10クラスもあると、
正直、3年間同じ学年で過ごしても
全然、知らない人もたくさんいる。
彼女は、私にとって、今、初めて
存在を意識した人。
なのに、彼女にとって私は、
憎くてしょうがない相手なんだね。
…なんだか、悲しい。
『綾の身の回りのこと、
全部、あんたなんでしょ?』
ふてくされた顔でそっぽを向いてる。
『あたしのエプロンも?』
返事しないのが、
むしろ返事になってるようなもの。
『ニシノヤのこと、好きなの?』
そこで初めてこっちを向いた彼女。
腹立たしさと、戸惑いの表情と、
小さな、声。
『…あんたたちばっかり、ずるいじゃん。』
『ズルいって、どーいうことよ?』
『ニシノヤ君にベッタリ。』
…いや、そんなことないと思うけど。
むしろ西谷君は、誰とでも仲良いし。
『んなことないでしょーが!
あたしも綾も只の友達だし。
とんだとばっちり!』
『じゃ、なんで烏野受験の手伝いなんかする?
もっとバレーの強いとこ行けば、
絶対、もっと活躍できるのに。』
『そんなの、あたしらに言われても。
…ってか、あんたが心配することでもない。』
『…好きなら、見たくない?
ニシノヤ君が活躍する姿。』
『別に。好きじゃないし。』
…カオリは、そうだろうね。
私は…ちょっと、見たいけど。
『どこならいいのよ?』
『…青城とか。』
『なら、直接、言ってやれば?』
『あんた達が
いつもベッタリくっついてるから!』
…くっついて、ないし。