第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
宮城の3月。
桜なんか、
まだどう見たって、ただの枯れ木。
青葉城西高校、本日、卒業式。
さっきまで、学校のあちこちに、
ここを旅立つ18歳の喜びと涙が
春を呼び寄せるように満ちていた。
それももう今は、
ひとしきり落ち着いて。
『ね、まっきーは?』
『彼女と一緒に、とっとと帰った。』
『あの二人、危ないね。』
『なにがだよ?』
『彼女は東京の美大、
まっきーはこっちで美容専門学校だもん。
絶対まっきーは、楽しく遊んでるうちに
地元の子と付き合い始めるね。
及川さんのそばにいるから目立たないけど、
まっきー、ピンで見るといい男だもん。
ほどよくチャラいしさ、きっとモテるって。
自由で楽しい毎日が目の前だよ?
遠距離恋愛なんて、無理無理!』
『嬉しそうな顔で
仲間の不幸な未来、予想すんじゃねぇ。
しかもついでに自分の自慢もサラッと
しやがって。このクソ川。』
『…岩ちゃん、最後まで毒舌絶好調(笑)
まっつんは?』
『あぁ、迎えが来てたな。』
『お母ちゃん?』
『んなわけねーだろ。
なんか、青いスポーツカーに乗って
でっけーサングラスかけた、
大人っぽい女だったぞ。
あれ、新しい彼女か?』
『まっつん、また年上、捕まえたの?
顔、隠してたなら、もしかして人妻かなぁ?
もう、相変わらずマニアなんだから…』
『羨ましそうな顔すんな、エロ川。』
『で、そういう岩ちゃんは?
卒業式の日に、年下彼女にフラれた?』
『殴るぞ、アホ川!
在校生は、まだ帰んねーんだよ!
彼女とは今夜、会う約束してっから、
それまで、お前の孤独につきあってやる。』
『やっぱ岩ちゃん、やっさし~い!
俺たちの超絶信頼関係は不滅だね…イテテ、
やめて、イタッ、痛いって…』
ガンッ…バタバタ、ガガッ…
『…シーッ、岩ちゃん、静かに!』
体育館の入り口ドアが
勢いよく開く音に続いて
いくつもの足音と
練習場の入り口を開ける音。
そして、俺を探す、
女の子たちの黄色い声。
『及川センパ~イ』
『及川君♥』
『及川さ~ん、いませんかぁ?』
俺をホールドしていた岩ちゃんの腕が
ゆるりとほどけた。
息を潜めるように、気配を消して。
何度か体育館に響いた声も、
しばらくすると、聞こえなくなり…
先に口を開いたのは、岩ちゃん。