第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
『体育大会が終わったらさ、
思いきってニシノヤに告白したら?』
…あの借り物競争の帰り道から
カオリには何度もそう言われたけど、
もちろん私は、そんなことはしなかった。
あの日手にした最高のドキドキこそ
中学で一番の想い出にしたかったから。
その代わり、という訳じゃないけど…
『ぎゃー、この時期にこの点数って…
ニシノヤ…あんた、マジ、大丈夫?』
『森島~、俺はマジで大丈夫なのか?』
『西谷君、
体育大会の時のあの熱い前向き魂っ、
あれ思い出して!
あのくらいの気持ちでやれば大丈夫!』
週に3日、放課後、
カオリと一緒に西谷君の勉強を
見てあげることになった。
…教科書を前にした時の西谷君は
日頃のあの輝きは全く失せ、
空気の抜けた浮き輪みたいになるのが
見ていて面白い。
『ニシノヤ…あんた、マジで
バレー推薦で入れるところにしたら?』
『…うぅ…そしたらもう俺、
勉強しなくていいのか?』
『カオリ、そんなこと言わないで!
ね、西谷君、
諦めた段階で、烏野高校はアウトだよ?
学ラン、着たいんじゃなかったの?
烏野の制服の女子と青春するんでしょ?』
『学ランとミニスカ紺ブレでデート…
そうだ、森島、
俺の最高のモチベーションはそれだ!!
うぉ~、待ってろ、俺の青春!』
週に三回、放課後の教室での勉強会。
そのために私は、前のテストの時のように
西谷君専用のノートを作り、
それをやりとりしながら勉強を教えた。
専用ノートと言っても、
内容は本当に勉強のことだけなんだけど、
なんだか交換日記でもしてるようで、
私はそのノートを受けとるのが
すごく楽しみで。
字がミミズみたいになってる日は
"眠かったのかなぁ"…と
クターッとしながら頑張ってる姿を
想像して嬉しいし、
何度も消した後がある時は
"すごく一生懸命考えてくれてる"…と
例え答えがあってなくても嬉しいし、
正解率があがってくると
まるで自分のことのように嬉しいし、
…それが、いずれ
別々の学校に行くことになるための
準備だとわかってはいても、
今、西谷君と繋がっていられるだけで
嬉しくて。
だから、
私と西谷君(とカオリ)が
仲良いことを面白く思わない人が
いるってことなんか、
全然、気づかなかった。