第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
赤組から走ってくる西谷君と
マイクを置いて戻る私達。
3人揃った所から走りだそうとしたら
カオリが手を出して言った。
『綾、真ん中で手ぇ繋いで。
あんた、足、遅いから、
あたしとニシノヤが引っ張る。』
『でも…』
そしたら、西谷君が即座に言った。
『何言ってんだ、
手なんか繋いでる場合じゃねぇだろ。』
…だよね、だよねー。
ソッコー、却下されて
ホッとしたような、残念なような…
納得しないのは、私じゃなくカオリ。
『ニシノヤ、ケチなの?手くらい、繋ぎなさ…』
『お前ら、見てみろ!』
カオリの言葉を遮った西谷君の
目線の先を追うと、そこには、
さっき私たちが追い抜いた青組のペアが
土ぼこりの中、
大きなタイヤを転がしながら
すごい勢いで追いかけてくる。
『…青組のひいた指令って…タイヤ?!』
『てかさ、あんなでっかいタイヤ、
どこから持ってきたんだろ?』
びっくりしてる私とカオリに向かって
西谷君が叫んだ。
『おい、ボケッとすんな!
青には、ぜってー、負けねぇ!
森島、早く、乗れ!』
え?
早く、乗れ…って?
…目の前に、西谷君の、背中。
それを見て、固まる、私。
今にも走り出しそうな西谷君の背中は
小さいはずなのに(←失礼?!)
すごく大きく、すごく広く見えて。
『森島、早く乗れって!』
何がおかしいのか、
笑いをこらえてる顔のカオリが
私の後ろに回りながら、大声で言う。
『綾、赤組優勝のためだから、
乗らないと許さない!!』
ドンっ…
カオリが後ろから私の背中を押して、
ふわっ…
両足が、宙に浮く。
西谷君の背中にのっかった、
簡単に言えば、おんぶされた…私。
西谷君の手が、膝の裏を掴む。
西谷君の、手。
文化祭でハイタッチした時には
嬉しさしか感じなかったのに、
今は、力強さや熱さや大きさが
ダイレクトに伝わってきて…
『ち、ちょっ…?!』
私の戸惑いなんか
全くお構いなしの二人は、
顔を見合わせて、
『ニシノヤっ!』
『よし、カオリ、全力だ!
おい森島、落ちんなよ!!
行くぜっ!青、ぶっちぎーるっ!!!』
西谷君の雄叫びが
私のすぐ耳元で聞こえて、
そのまま、景色が動き始めた。