第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
風船の中から出てきた小さな紙。
その紙に書かれた指令は、
"学校で1番モテる人"
なに、これ?!
正解のない指令、
書かないで欲しいんですけどっ!
『…カオリ、こ、こういう時は、
やっぱ、担任とか呼ぶのが無難…』
『はぁっ?アレ、モテるっ?』
…遠くに見える、私達のクラス担任。
来年、定年。頭髪、薄め。
体型、骸骨。声、小さめ。
ちなみに、独身(笑)
『悪い人じゃないし…』
『よくないっ!いい人とモテる人は、違うっ!
そこは私のセンスが許さないからっ!
それに…走れないでしょ?!』
確かに、カオリのセンスはともかく(笑)
足腰、弱めなのは間違いない。
『でもほら、定年前の想い出にさ、
女子と手を繋いでゆっくり皆の前を…』
『ナシっ!
先生は定年前かもしんないけど、
あたしらだって卒業前だからっ!
それに、競争だよ?
ゆっくり、なんて有り得ない!』
『でも、でも、じゃぁ…』
…カオリが私の手を引っ張って表彰台の前まで走り、
そこにあったマイクスタンドの
マイクを手にしてスイッチを入れる。
『あー、あー、みんな、聞こえる?』
突然のことに、シンとなるグラウンド。
横にいるだけなのに、超、居心地悪い、私。
…みんながカオリに注目する中、
カオリが手のひらの紙をピラピラさせながら
大きな声で問いかけた。
『うちのガッコで、
"俺が、1番モテるぜぇっ!"って
自信のある人、いる~っ?』
みんなの頭の上に??マークが浮かぶ間、
ヤケに気持ちを焦らせるような
元気のいい音楽だけが鳴り響いてて、
そして、聞こえた声は、
赤組のテントの前。
『俺のことか~っ?!』
大きな赤い旗を持って
デーンと立つ、西谷君。
みんなが、ドッと笑う。
赤組のテントからは
"応援団長っ!"
"行ってこいっ!"と声がかかって、
他のテントからは
"西谷センパ~イ!"
"モテる、モテるぅ❤️"
という女の子の声も。
『OK、ニシノヤ、全速力でっ!』
カオリの声に、
西谷君が旗を放り投げ、
猛スピードでこっちに走ってくる。
『…カオリ、』
『しょーがないじゃん、
自分でモテるって言うんだからさぁ。
綾、これは競技だから、
恥ずかしがってないで、ちゃんと手を繋ぎなよ!』