第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
人はどんどん歩いてきてて、
まさき君と彼女、そしてカオリも、
その流れのなかに吸い込まれる。
…私と西谷君が動けない間にも
すべてのことが動いていく。
まさき君は、
隣を歩く彼女に肉まんを一口かじらせ、
そしてその彼女がかじったところを
今度は自分がかじろうと、
大きく"あーん"と口を開けて、
まさにその時、
『…ぇっ?!』
『いいぞ、カオリ、いけっ!』
カオリが
後ろからまさき君を追い越しがてら、
その腕に、ドンッ、とぶつかった。
まさき君の手から、
肉まんがコロリと落ちる。
通りすぎかけたカオリが
わざとらしく立ち止まって、
…ここまで声は聞こえないけど…
まるで知らない人に謝るみたいに
声をかけながら肉まんを拾うカオリ。
カオリの顔を見て、
びっくりして何も言えないまさき君。
(そりゃそうだよね、
浮気相手と間接キスしようとした瞬間に
彼女が現れたんだもん。)
ポカンとあいたまさき君の口に、
カオリが、
拾いあげた肉まんを、汚れたまま
ムンギューーーっ、と押し込んで、
何が起こったのかと慌ててる二人を
通りの真ん中に置き去りにして、
そのまま、人の流れを縫うように
…その動きはまさに
バスケで鍛えた見事さ…
走って通りを横切ってくる。
多分、ほんの30秒くらいのこと。
その間、
私達はただ見てただけだったけど、
カオリはちゃんと、
自分の恋に自分で決着をつけた。
…カッコいい。カッコいいよ!
『カオリ!!』
気がつくと私は通りへ飛び出し、
カオリに駆け寄っていた。
『綾?!』
『カオリ、カッコよかった!
すっごくカッコよかったよ!』
『…そう?』
『うん、私までスカーッとしたもん!』
『…ね、なんで綾、ここにいるの?』
『あ、』
そうだ。隠れて見てたんだ、私、達。
『それは、あのー、ついてきちゃった。
なんか様子がおかしいな、って思って。』
『…私、今日、おかしかった?
フツーにしてたつもりだったのに…』
やっぱり、そうだったんだ。
頑張って、フツーにしてたんだ。
『カオリがおかしいって気付いたの、
私じゃなくて、』
…あれ?そういえば、西谷君、どこ?